思い出のワインを通して人と接する。漫画「ソムリエール」の魅力とは?

ワイン関連の漫画も増えてきましたが、女性が主役という漫画は少ないかもしれませんね。今回は思い出に残る特別なワインの数々が若い女性ソムリエールによって紹介される漫画「ソムリエール」をご紹介します。

ワインが人と人を繋ぐ

漫画「ソムリエール」はドラマ化もされた漫画「ソムリエ」の原作者である城アラキさん、ワイン研究家である堀健一さん、そして作画を担当する松井勝法さんによって、2006年から2012年まで集英社の「ビジネスジャンプ」を経て「グランドジャンプ」で連載されたワイン漫画です。

主人公の樹カナは幼少期に両親を亡くしスイスにある孤児院で生活していましたが、謎の篤志家から援助を受けてフランスの大学の醸造科を卒業し、その後は孤児院に戻りワイン造りに専念していました。

あるとき長年援助してくれていた篤志家から、東京にある「エスポワール」にソムリエールとして勤めることを孤児院への資金援助継続の条件として提示され、東京に身を寄せることになります。

そこで出会ったかつての天才ソムリエであり「エスポワール」の支配人である片瀬丈をはじめとする、ワインを愛しながらもどこか悲しみを携えた人々に、ワインを通して再び大切な何かを思い出させる手伝いをしていきます。

思い出の1本から始まるストーリー

「ソムリエール」では登場するひとつひとつのワインが誰かにとってかけがえのない1本であることが強調して描かれています。

主人公は両親を亡くしてからずっとワイン造りに携わり大学でワインを学んだこともあり知識や経験の両方においてワインに精通しており、テイスティング能力もワインを必要だとしている人々へのチョイスも抜きん出て秀でています。物語をこんなにもほっとするような心温かい物語に仕上げているのは彼女の穏やかで全てを受け入れるような人柄にあるのではないでしょうか。

そんな彼女の人格も監修を担当している堀健一さんのワインを愛する心あってこそではないか、と各巻末にあるコラム「ワインの自由」を読みながら感じました。

私が「ソムリエール」を初めて読んだのは連載が始まって間もない2007年のことでした。お酒が好きでワインも大好きで、けれどワインに関する知識がほとんどない状態でこの作品を読み、こんなにもワインには人を幸せにする力があるんだ、と感動したことを覚えています。

そんな「ソムリエール」に登場する、ワインをもっと好きになれるようなエピソードを次のページでご紹介したいと思います。

ボジョレー地方のワインだって美味しいのです

1巻に登場する話の中にボジョレー・ヌーヴォーとボジョレー地区のグラン・クリュであるブルイィが登場する話があります。 日本で一番有名なワインはフランスのボジョレー・ヌーヴォーかDRCのロマネコンティだと思いますが、後者は車が買えてしまうような値段であるために飲んだことがある人はごくごく僅かではないでしょうか。

それに比べて前者は毎年11月になればその年のボジョレー・ヌーヴォーが解禁され、スーパーなどで大々的に売り出される事はご存知の通りです。日本にはボジョレー・ヌーヴォーの約半数が輸出されるためでもありますが、毎年毎年、どれほど良作だと謳われていても絶品だと大絶賛する人はいません。

その原因として、早く飲めるようにするためにマセラシオン・カルボニックという製造法でつくられていることが挙げられます。

これが独特の風味を醸し出していることとボジョレー地方のワインに使用されるガメイという品種が、いわゆるエレガントで味わい深く酸味もあまり強調されないブルゴーニュのピノ・ノワールの赤ワインとは違うと感じる人が多いようです。

しかし、他のワイン研究家や評論家も指摘するように、ボジョレー地区に10個存在するグラン・クリュのワインはボジョレー・ヌーヴォーに絶句した人の観念を覆すほど美味だそうです。

作中で登場するブルイィは主人公に薦められて飲んだ男性が「エスニックな香りでボジョレーとは全く違う シャトー・ラフルールやラパリータのような深遠な味わい」だと絶賛しています。

多くの人にワインを飲んでもらいたいという思い

「ソムリエール」を読んでいて強く感じたのは著者のみなさんの「もっと多くの人に気軽に楽しくワインを飲んでもらいたい」という思いでした。 20年くらい前まではまだまだ輸入されるワインも少なく「ワインは値段も敷居も高すぎて、一般人はとても手が出せないもの」だという認識が蔓延していたんだろうと思います。 けれど、そんな凝り固まった思いを現在まで抱いている人はおそらく、こう思っていませんか?

「ワインなんて1本何万円もするもんだろう」

・飲み続けないと味がわからないものに決まっている。

・温度管理などセラーがないと大変で一般家庭では飲めない。

・スーパーで売っているワインは三流以下で、アレを美味しいと言ったら恥ずかしい。

そんなことは決してなく1000円前後で美味しいワインもありますし、ハーフボトルでニューワールドのものだったらワンコインで楽しめてしまったりもします。

この「ソムリエール」を読んでいただければ、宝石のように煌めく記憶と共にたった1本のワインが人と人を繋ぐことを知っていただけるのではないでしょうか。 世界にはワインに限らず様々なお酒が存在しますが、その全てが「楽しむため、幸せを感じるため、誰かと一緒に飲むため」に愛されながら飲まれてきたものではないでしょうか。ワインは現在では昔に比べて随分気楽に飲めるものになったとは言え、まだまだ御堅い印象が拭えないお酒であることは否めません。

そんな時にふと「ソムリエール」を手に取って、ワインは難しく飲むものではなく感情と記憶に幸せとして刻むものだ、ということを実感してみてください。

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お酒と書籍をこよなく愛すワイン好きなライターです。ワインの魅力にとりつかれ、知識を深め、ワインエキスパートの資格を取得。「ワイン=敷居が高い」という既成概念を壊していきつつ、一緒にワインの楽しさを探っていきましょう。

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