【連載】デートで飲むシャンパーニュのウンチク(テタンジェ編)

オトナワイン - お家ワインを目指すための特訓講座第 【 登場人物 】

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ワインでイイ格好をしたい青年が、ワイン・クレージーのオジサンの「シャンパーニュのウンチク」を耳ダンボ状態で聞いている。

 

「前回、どんな料理にも合って、物凄くスタイリッシュだし、ソムリエさんじゃなくて自分で選べるワインがシャンパーニュって言ったけど、覚えているかな?」

 

「覚えてますよもちろん! まずは、『異端児が褒める萌えママ久里子は暴飲じゃ』の6種類のシャンパーニュが基本なんでしょ?」

 

「おっ、さすがだね。で、その語呂合わせの最初に出てくる『異端児』がテタンジェだ。Taittingerと書いて『タイチンガー』じゃなく、サラッと、『テタンジェ』と読めるとポイントが高いね」

 

「語呂合わせは『異端児』だけど、飲んでみると、異端児じゃなくて、イブニング・ドレスをまとった伯爵夫人みたいにエレガントだよ。よく例えられるのが、ハリウッド女優からモナコ王妃になったグレース・ケリーだな」

 

「オレ、そういうの、すごくストライク・ゾーンっすね。テタンジェって、どのぐらいプロっぽいんすか?」

 

「プロもレストランでフツーのオーダーするんで、プロ度はかなり高いと思うよ。テタンジェのいいところは、面白いエピソードがいっぱいあって、ウンチクに困らないことかな。これをさり気なく、デートの席で披露できると、『ワイン愛好家』のオーラがバチバチでるぞ」

 

「ウンチクが多いシャンパーニュって使い勝手がよさそうっすね。是非、活きのいいところを見繕って教えてくださいよ」

 

「銀河系の全ての映画の中で、シャンパーニュが一番重要な役割をしたのが、007第2作目の『ロシアより愛を込めて』で決まりだ。007が愛したシャンパーニュってとこだね」

 

「あれ、この前見たジェームス・ボンドではボランジェを飲んでように思ったんすけど?」

 

「なかなかよく見てるね。007シリーズのシャンパーニュは、映画によって替わるんだ。第1作目がドンペリ、2作目がテタンジェで、以降、ドンペリに戻って、今はボランジェだ。ラベルが『カメラ目線』で正面から写っているんで、タイアップだろうね。ボランジェの宣伝ポスターにはジェームス・ボンドが写ってるもんな」

 

「で、その『ロシアより愛を込めて』で何があったんすか?」

 

「ボンド・ガールのタチアナとジェームス・ボンドが偽装夫婦としてイスタンブールからオリエント急行に乗ってロンドンへロシアの暗号解読機を運ぶという設定だ」

 

「その時のボンド・ガールって誰だったんすか?」

 

「ダニエラ・ビアンキというイタリア人の超美人だよ。新人女優だったんで演技がぎこちなかったけど、それが却って新婚夫婦らしいと評判になったね」

 

「美人はなにをやっても褒めてもらえるんすね。オレなんて、なにやっても叱られますもんね」(ちょっと遠い目)

 

「で、オリエント急行だけど、蒸気機関車で走っていた頃だ。そこにイギリス人将校に化けたロシア人の殺し屋が紛れ込むんだ。ボンド夫妻と殺し屋が、オリエント急行の食堂車でディナーを取るシーンが有名でね、ボンドは、舌平目をオーダーして、テタンジェのコント・ド・シャンパーニュを合わせた。これは、テタンジェ社の最高峰のシャンパーニュで、白ブドウだけで作った超エレガントな逸品だ。対するロシア人は、なんと、舌平目にイタリアの安い赤、キアンティを合わせたんだ」

 

「魚料理に赤っすか。多分、僕でも合わせないな」

 

「そうなんだよね。マグロの赤身なら赤ワインもありだけどね。物のないロシアで育った殺し屋は、自分が知っているワインの中で一番高級な物を選んだ結果がイタリアの安ワイン、『キアンティ』だったって訳さ」

 

「昔のロシアって、そんなに物がなかったんっすか。じゃあ、新婚の奥さんに変装したダニエラ・ビアンキも、化粧品はシャネルじゃなくてソ連邦国営工場製なんでしょうね。でもいいけど、ちょっと可哀そう」

 

「原作者のイアン・フレミングは、大のロシア嫌いだったんで、残酷なまでに生活レベルの違いを出したんだろね。食事が終わった後、ロシアの殺し屋が正体を現して、ボンドにピストルを突きつけたんだ。その時のボンドの台詞が、『「平目に赤ワインか……』。イギリス人なら、そんな泥臭い組み合わせはしない、その時に正体を見破るべきだったと悔やむんだけど、ロシア人は平気な顔。で、『ワインに詳しくてもお前の負けさ』と、ワイン通ぶりを皮肉るって訳さ」

「その言葉は、ワイン通には厳しいっすね。でも、言われてみたいなぁ」

 

「この映画を見たテタンジェのクロード社長は、お礼として、イアン・フレミングにコント・ド・シャンパーニュを1ケース送ったんだ。それに対するフレミングの礼状がテタンジェ社の貴賓室に飾ってあるんだ。その礼状にはね、『送ってもらったコント・ド・シャンパーニュをボンドと二人で飲もうと思ったけれど、今、ヤツは任務で日本にいてサケを楽しんでるんで、私が一人で飲むことにする』って書いてあるんだ。その時、フレミングは日本を舞台にした『007は二度死ぬ』を執筆中だったんだろうね」

 

「本を書いて、中でシャンパーニュを登場させたら、『広告費』として、現物を送ってもらえるんすかぁ。オレって、ピース綾部に似てるって言われるんっすけど、相方のピース又吉みたいに本を書いて、ワインをたっぷりもらおっかな」

 

「映画と言えば、あのリュック・ベッソン監督もテタンジェが大好きなんだよね」

 

「リュック・ベッソンというと、『ニキータ』や『サブウェイ』の監督でしょ? ベッソンとクエンティン・タランティーノはオレの大好きな監督っすよ。こう見えてオレ、意外に映画、詳しいんっすよ」

 

「それだよ、『ニキータ』と『サブウェイ』の両方にテタンジェが出てくるよ。『ニキータ』では、『女スパイ養成所の卒業試験』というカッコイイ場面で登場するから、見てみるといいね」

 

「これで、テタンジェのウンチクはゲットですね。早速、使ってみます」

 

「デートで成功するコツは、お相手に『シャンパーニュはたっぷりと、ウンチクは控え目に』だからね。その逆は嫌われるぞ」

 

「もちろん、わかってますよ」

 

真面目なのか、不真面目なのか分からない会話で、西麻布の夜は更けていくのであった……。 …次号へ続く

シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など

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