日本ワインを底上げ!世界へ躍進する甲州ワインの歩みと魅力を再確認!

昨今、日本国内でも海外品種を使った素晴らしいワインが造られていますが、日本ワインが世界へ進出するのであれば甲州が鍵を握ると思われます。

甲州の日本最大の生産地である山梨県には、「甲州ワインEU輸出プロジェクト(KOJ)」という同県主要ワイナリーで造られる生産者団体があります。KOJは、8年前からイギリス・ロンドンでプロモーション活動を行っており、その甲斐あってか、甲州ワインの輸出量はこの5年で20倍となりました。

さらに中央葡萄酒の「グレイス甲州」が英国有名ワイン雑誌で取り上げられ、甲州ワインは世界的に注目されるようになりました。今回は、そんな「甲州ワイン」についてご紹介します。

甲州ブドウとは

甲州ブドウは、グリと呼ばれるやや薄紫色をした日本の在来品種の白ブドウです。完熟するとピンクがかった果皮になり、そのブドウを使用すると、色合いがワインに反映されることがあります。

一般的な甲州ワインの色は淡く、透明感のある美しい色合いをしていますが、樽熟成を行ったものなど、色合いが濃いワインも見受けられます。酸味は穏やかで口当たりが優しく、フレッシュフルーツのような香りが特徴的です。

甲州ブドウの伝来

甲州ブドウには二つの伝来説があります。それが、「雨宮勘解由(あまみやかげゆ)説」と「大善寺説」です。ひとつは、1186年に雨宮勘解由が山梨県の勝沼で野生ブドウの変性種を見つけ、甲州へと改良させたという説。

一方の大善寺説は、718年、諸国行脚中の修行僧である行基が、甲斐国内を廻り巡った際、川岸の大きな石の上で21日間正座して祈願をし続けたところに、薬師如来が現れ、その姿を刻みこの地に大善寺を建立したという説です。

この二つの説が語り継がれていましたが、2013年に独立行政法人酒類総合研究所の後藤奈美氏が、甲州はヨーロッパ系品種のヴィティス・ヴィニフィラ種であることをDNA鑑定で解析しました。

さらに、ヴィティス・ヴィニフィラ種には中国の野生種である、ヴィティス・ダヴィーディのDNAが少し含まれていたことが分かり、これが甲州の母方の祖母に当たると推定されました。結果、甲州はカスピ海付近で生まれたヴィティス・ヴィニフィラが中国を渡り、長い時間をかけて野生種と交雑を繰り返した後、日本へと伝来したということが分かったのです。

甲州ブドウの歩み

今や、甲州ワインは世界的に注目されるワインですが、「無色透明で個性がなく、味わいも水っぽく、香りもない」と厳しい指摘を受けていました。しかし、甲州ブドウは初心者には難しいといわれる棚栽培で造られており、ベテランである地元農家の方々の助けにより、良いブドウが造られていることに間違いはなかったのです。

その後、フランス・ロワール地方などで行われているシュール・リー製法を取り入れるなど、徐々に品質は改善されていきますが、大きな話題にはなりませんでした。そんな混迷の一途をたどる甲州に光明が訪れます。

甲州に柑橘系の香り

2003年、シャトー・メルシャンとボルドー大学の共同研究により、なんと甲州ブドウにはソーヴィニヨンブランのような柑橘系の香りがあることが発見されました。

この香りの成分は3MH(3-メルカプト・ヘキサノール)と呼ばれ、今までの栽培方法だと難しいと言われていました。しかし、大手メーカーからの情報提供や県内生産者同士の勉強会、情報交換などが盛んに行われるようになり、甲州ワインの品質の底上げが山梨県全体で行われるようになりました。

そのような生産者たちの栽培、醸造などの改善により、今の甲州の最大の武器である「柑橘系の香りを持つ甲州ワイン」が造り出せるようになったのです。

OIV登録で世界へ

品質が向上した甲州ワインが、次に目指したのが「世界」でした。しかし、ヨーロッパへ甲州ワインを輸出する際、ワインに使われている品種がOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録されていなければいけません。

このOIVに甲州ブドウが認定されない限り、ヨーロッパでは「甲州」の名をラベルには記載できません。そこで、生産者と県、さらには国も協力体制を取り、官民が一致団結して甲州をOIV登録へ努力を続け、2010年3月31日にOIVへ品種登録され、同年の6月より「甲州」「Koshu」がOIVへ正式登録されました。

新たな甲州のスタイル

甲州種の醸造法には強い縛りは無く、シュール・リーを行ったり、ステンレスタンクで仕上げたり、別の区画の甲州ブドウをブレンドしたりと、同じ地域でありながら、ワイナリーによってスタイルが全く違うところが興味深い点です。

さらに、勝沼醸造では補糖、補酸が必要といわれる甲州を無補糖、無補酸で仕上げるなど、あえて繊細さを活かした甲州ワインに挑戦しはじめています。このように、甲州ワインは、生産者によって個性が違ってくるところが最大の魅力なのです。

まとめ

甲州ワインというと、口当たりが優しく、フレッシュで飲みやすく、和食に合うワインというイメージが一般的かもしれません。しかし、前述したように生産者によってスタイルに幅があり、いずれも同じような味わいでは無いところが魅力です。

さらに、醸造法だけでなく、勝沼、明野村、白根地区、八ヶ岳など甲州が栽培されているテロワールによっても味わいが変わってくるので、ぜひ甲州ワインを手にとってみてください。

山梨県生まれの東京暮らし。フリーライター。音楽、ラジオ、ファッション、グルメなどさまざまなフィールドで活動中。甲州ワインに日常的に触れていたことで、知らぬ間にワイン通に…。ワインのちょっとした知識を小出しに紹介していきます。

関連コラム

飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されております。 Copyright © 家ワイン All Rights Reseved.