日本代表の黒ブドウ!誕生90周年を迎えたマスカット・ベーリーAの今を知ろう!

日本の土着品種といえば、甲州とマスカット・ベーリーAが有名です。2010年にO.I.Vのリストに品種登録された甲州に続き、2013年にはマスカット・ベーリーAもO.I.Vのリストに品種登録されました。日本ワインの重要二大品種といっても過言ではありませんが、マスカット・ベーリーAは甲州の活躍の影に隠れてしまい、あまり目立つ存在ではありませんでした。

しかし、近年はマスカット・ベーリーAが持つ魅力を追求し続けることで、素晴らしいワインを生み出すことに成功した生産者たちが現れ始めています。今回、2017年で誕生90周年を向かえたマスカット・ベーリーAの魅力や新しい取り組みなどを行う生産者について紹介していきます。

マスカット・ベーリーAとは?

マスカット・ベーリーAは、岩の原葡萄園の創業者である『川上善兵衛』によって開発された、黒ブドウ品種です。1927年に、ラブルスカ種とバックリー種から誕生したベイリー種を母に、ヴィニフィラ種であるマスカット・ハンブルグ種を父に交配されました。ヴィニフィラ種が血統上68.8%を占めていますが、生食用も兼ねているため、ワイン用以外にでも多く市場に出回っています。

マスカット・ベーリーAは、病気に強く栽培しやすい、また、多収性といった品種特徴であるが故に、農家にとっては他のブドウ品種や果樹の合間をぬって栽培しやすい品種として扱われてきました。このような背景も関係してか、山梨に集中して栽培されている甲州とは違い、マスカット・ベーリーAは、長野や山形、広島、島根、宮崎など、広い範囲で栽培されています。

マスカット・ベーリーAが低評価を受けていた理由とは?

「マスカット・ベーリーAから造られるワインは、美味しいとは思えない。」数年前、マスカット・ベーリーAに対して、このような厳しい意見を持たれていた方が多くいたことは紛れも無い事実だと思います。

1998年頃の赤ワインブームが去ってしまった2000年頃、マスカット・ベーリーAはボルドー品種の代替品として期待されており、生産者たちは新樽などを使ってみるも、良い結果を残すことができませんでした。

また、マスカット・ベーリーAはタンニンの量が少ないため、骨格を構成しにくく、「フォキシーフレーバー(ぶどうジュースのような香り)」を呈するメチルアンスルアニレートという成分を持つことからも、海外のワインに比べて「劣っている」という評価を受けやすいワインしかできなかったと考えられます。

マスカット・ベーリーAの躍進

世間で漂うマスカット・ベーリーAの諦めムードに抗い、希望を捨てなかったワイン生産者たちは、品種の品質向上にチャレンジし続けます。幸い、各地に存在するブドウ栽培のプロである篤農家の助けを借りながらマスカット・ベーリーAを絶滅させず、各自目指すスタイルを求めながら根気良くブドウ栽培を続けていきました。
 

ちなみにこの品種は本当は遅摘みが適している品種なのですが、新酒対象として扱われていたこともあり、ポテンシャルを活かされず早めに収穫される習慣があったといわれています。

しかし、「とにかく、早くワインにして売ってしまおう」という扱いではなく、マスカット・ベーリーAが本来持つポテンシャルを活かす栽培、醸造方法が有志たちによって練られた結果、2010年以降になって、ついに素晴らしい品質のワインが誕生し始めたのです。

マスカット・ベーリーAの注目生産者

マスカット・ベーリーAといえば「ダイヤモンド酒造」が有名です。全房発酵を行う、こだわりの造りが人気を博しています。続いて、かの有名な「勝沼醸造」。マスカット・ベーリーAの持つポテンシャルを、できるだけ自然に表現する試みでワインが造られています。
 
そして、続いては広島県の「広島三次ワイナリー」。日本ワインコンクールでも受賞歴を持ち、フレンチオークとアメリカンオークを使ってマスカット・ベーリーAを仕込む、今後大注目のワイナリーです。 
 

そして、マスカット・ベーリーAで新たな日本ワインの未来を切り開こうとする山梨県南アルプス市の「ドメーヌヒデ」。マスカット・ベーリーAの持つ味わいの限界を決めず、常にベーリーAの「力」に挑戦し続ける素晴らしいワイナリーです。マスカット・ベーリーAは、大粒なことで知られていますが、小粒化に挑戦するなど、常に最高品質への試みを続けているワイナリーです。

マスカット・ベーリーAへの新たな挑戦

マスカット・ベーリーAは、良い意味で「正解」が決まっている品種では無いために、生産者によって個性が出る面白い品種です。そんな背景からか、前述した山梨県南アルプスの「ドメーヌヒデ」では、前代未聞の挑戦が行われています。それが、『マスカット・ベーリーAの自根(じこん)栽培への挑戦』です。

ブドウは基本的にフィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)を避けるために、台木として根っこ部分にアメリカ系のブドウ台木が使用されています。フランスをはじめとしたヨーロッパのワイン銘醸地はもちろん、1900年頃にはフィロキセラの影響で山梨県の甲州が全滅したといわれています。そもそも、マスカット・ベーリーA自体、フィロキセラ対策で造られたブドウであり、未だ台木無しで栽培された事例がほとんど無いそうです。
 

事例の無いマスカット・ベーリーAの自根栽培の目的についてドメーヌヒデの渋谷さんに伺ったところ、「100%ベーリーA、ベーリーの小粒化栽培、遺伝子違い(親木違い)での味わい差の確認です。」との返答が返ってきました。マスカット・ベーリーAに、どんな未来が待っているか、楽しみで仕方ありません。

まとめ

マスカット・ベーリーAは、私たちにとって、まだまだ未知の可能性を秘めているブドウ品種です。「カベルネっぽいかも?」「ネッビオーロのニュアンス?」「ピノノワールの香りかな?」など、何かに例えられれば簡単なのですが、マスカット・ベーリーAは、「マスカット・ベーリーA」以外に例えることのできない、良い意味で強烈な個性を持ったブドウ品種です。
 

日本のワインは、未だに赤がイマイチ…といわれるきらいがあります。日本国内での欧州品種の躍進も魅力的ですが、ぜひ日本で生まれた黒ブドウ品種「マスカット・ベーリーA」を皆さんで応援していきましょう!

注目の生産者

 

ダイヤモンド酒造
http://www.jade.dti.ne.jp/~chanter/

 

勝沼醸造
http://www.katsunuma-winery.com/

広島三次ワイナリー
http://www.miyoshi-winery.co.jp/

ドメーヌヒデ
https://www.domainehide.com/

山梨県生まれの東京暮らし。フリーライター。音楽、ラジオ、ファッション、グルメなどさまざまなフィールドで活動中。甲州ワインに日常的に触れていたことで、知らぬ間にワイン通に…。ワインのちょっとした知識を小出しに紹介していきます。

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