前、「このワイン、美味しいから飲んでみてよ」と、長野県でペンションを営んでいるオーナー様から1本のワインをいただきました。長野県で栽培されたメルローを使用したワインだったのですが、半信半疑で飲んでみたところ「これ、本当に日本のワイン!?」と、その味わいの素晴らしさに感激してしまったことがありました。
いつか、このワインを造っているワイナリーを多くの人に紹介したい…。そう思い続けて数ヶ月、家ワインでその夢がついに叶いました。
紹介したいそのワイナリーは、長野県松本市にある「山辺ワイナリー」。今回、山辺ワイナリー 遠藤雅之さんに、山辺地区のブドウ栽培について、醸造のこだわりなどを聴くことができました。
Q.山辺ワイナリーとは、どのようなワイナリーなのでしょうか?
「山辺ワイナリーは、長野県葡萄栽培発祥の地と言われる山辺地区に平成14年オープンしたワイナリーです。
当社は、デラウェアをはじめとした、歴史あるブドウ産地の山辺地区の地域活性化施設として、地元JAである「松本ハイランド農協」が事業主体となって設立されました。立地条件としては、ビーナスラインという観光道路があり、松本市側からの入り口にワイナリーがございます。ワイナリー、レストラン、農産物直売所があり、地元の方を含め観光の方にも気軽に立ち寄っていただけるような、観光施設にもなっております。」
Q.山辺地区は歴史のあるブドウ産地なのでしょうか?
「この山辺地区はブドウ産地として昔からとても有名なんです。長野県におけるブドウ栽培についてですが、1688年から1710年の江戸時代中期元禄・宝永の頃、現在の松本市山辺地区にあたる、筑摩郡山辺村に甲州から甲州ブドウが導入され、明治6年から本格的にブドウ栽培が始まりました。
明治末期には3ヘクタールのブドウが栽培され、大正時代の初期頃には病気に強い米国品種を導入。昭和初期には10ヘクタール前後のブドウが栽培されるほどになったそうです。
その後、デラウェアが導入されまして、昭和30年頃に飛躍的に増加。今では、およそ73ヘクタールにおよぶブドウ産地となっています。」
Q.山辺ワイナリーが大切にしていることとは何でしょうか?
「地元JAが母体であり、地域活性化施設として設立された経緯がありますので、地元のブドウを使用することを大切にしております。輸入濃縮果汁やワイン、県外産ブドウの買い入れを創業以来行っておらず、「地元原料ひとすじ」を守り続けております。」
Q.栽培面で注意されている部分はどんなところでしょうか?
「当社の自社農園は1.2ヘクタールほどありますが、病果を出さないことを徹底しています。
山辺は850メートルほどある標高の高い産地でして、冷涼で昼夜の寒暖差が大きく、清々しい場所なんです。そのため、この清涼感をワインで表現したいと思っておりまして、なるべく酸を大切にすることに注意をはらっています。
例えば、白い紙の傘をブドウの房ひとつひとつにかけるという作業があります。標高が高いということは、その分紫外線も強くなりますよね。ブドウを過剰な日照から守ることで、豊かな酸味の表現を目指しています。」
Q.一房ずつの傘かけとは、とても大変な作業ですね。次に、白ワインの醸造で注意されている点があればお聞かせください。
「近年の醸造方法の基本ではありますが、果汁を酸化させないことに注意をはらっています。
ブドウを冷やしたり、炭酸ガスを使用したり、酸化防止剤をバランス良く使うなどの工夫で酸化を防ぎ、酸がキレイに残るワインをつくることを心掛けています。
あと、雑味を抑えるために果汁の時点でオリ引きをする、デブルバージュを行っています。
ナイヤガラやデラウェア、シャルドネ、ピノグリなど、味わいをみながらではありますが、白ワインは基本的にデブルバージュしています。搾った果汁をタンクに一晩静置しておき、上澄みをとって雑味を抑えて酸を際立たせるようにしています。また、発酵温度も低めに保つなど、山辺らしい清々しいワインを目指しています。」
Q.赤ワインの醸造で注意されている点があればお聞かせください。
「タンニンや果実味が強かったり、ボディが強いワインなどは意識しますが、抽出しすぎないことに注意しています。色合いや味わいを無理に濃くしようと、醸し時の抽出を過剰にしてしまうと、結果的にバランスの悪いワインが仕上がってしまうんです。
日本ワインの良さは、「バランスの良さ」だと思っています。濃さを追い求めるのではなく、香り、味わいのバランスを大切にしています。ちなみに、白ワインは神経質につくっていますが、逆に赤ワインは神経質になり過ぎず、人が介入をし過ぎない方が良い結果となりますね。」
Q.今、おすすめする1本は何でしょうか?
「自分が手がけたワインには全て愛着がありまして、優劣をつけることができません。そのため、おすすめは全てのワインです!
とはいえ、どれか1本と言われれば、デラウェアを挙げたいと思います。山辺地区はデラウェアを特産としている地域ですので、明治以降にこの地をブドウ産地として形作ってきた先人たちへの感謝の意も含め、このワインをおすすめしたいです。」
Q.ワイナリーには訪問可能でしょうか?
「申し訳ないのですが、醸造場や畑はご案内しておりません。ワイン売店より、窓越しから自由見学となっております。ただ、試飲は多く用意しております。今、33銘柄を自由に試飲していただけるので、お客さまには楽しんでいただけると思いますよ。」
Q.今後の展望はありますか?
「今後の展望といいますか、楽しみにしている事なのですが、昨年山辺ワイナリーでは新たにソーヴィニヨンブランを植えました。実は、今長野県でソーヴィニヨンブランを植えている場所が増えており、それから良いワインをつくっているワイナリーもあるんです。どのようなブドウ、そしてワインができるか、今からとても楽しみしています。また、このソーヴィニヨンブランを通して「山辺」をどう表現するかという部分も、うれしい悩みです。」
最後に
今、世界的にも冷涼な産地でつくらているワインに注目が集まっています。
万人受けの似たりよったりのワインではなく、その土地の味わいを表現したピュアなワインは、飲んだ人の心を必ず動かします。山辺ワイナリーは、誰もが知る超有名ワイナリーというわけではありませんが、その品質は確かであり、ブドウ栽培、醸造へかける思いとワインへの愛情は、どんな海外の有名どころのワインにも負けていません。
ぜひ、一度山辺ワイナリーのワインを飲んでみてください。必ず、「出会えてよかった」と思っていただけるはずです。
山辺ワイナリー
http://www.yamabewinery.co.jp/
(ワインをこちらのHPから注文可能です)