今、注目されている「全房発酵」とは?複雑な味わいを生み出す魅惑の技法を解明!

近年、ブルゴーニュ地方を中心に「全房発酵」に注目が集まっています。ピノ・ノワールの持つ、繊細な香味に複雑なニュアンスを与えるということで、かのアンリ・ジャイエが強く推奨した「除梗」によるストラクチュアを形づくるワインづくりとは、真逆のアプローチです。

ピノ・ノワールの名手といわれる全世界のワインメーカーたちも、この「全房発酵」を取り入れた醸造を行っており、ワインファンとしては「知らない」ではすまされない段階にまできています。

今回、ここでは今一度「全房発酵」とはなにか、について検証していましょう。

全房発酵とは何か?

「全房発酵」をシンプルにいうと、除梗を行わず、果皮と種子、果肉に加えて梗も一緒に醸してしまう方法です。ワインについて勉強された方であれば、ブドウの収穫後、破砕と除梗が行われると習ったと思います。

ブドウの梗を果皮と種子、果肉と一緒に醸した場合、梗から青く粗いタンニンが抽出されるため、えぐみのある味わいのワインとなってしまうといわれています。

しっかりと除梗を行えば余計なタンニンは果汁に含まれず、果実味が強調され、よりピュアでやわらかなストラクチュアのワインが仕上がるのです。こういったワインづくりこそが基本であり、全てのワインメーカーが目指すべきところだ…という話も少なからずあります。

しかし、それでも全房発酵を行うワインメーカーは後を絶ちません。一体、全房発酵にはどういった魅力があるのでしょうか。

全房発酵のメリット

全房発酵の魅力をひとことでいうと、「複雑性のあるワイン」ということになります。例えば、全房発酵を行うことで、梗由来のスパイシーさが加わるために、平坦なワインではなく奥行きのあるワインがつくることができます。

また、ブドウの粒が除梗をされていないということで、果皮に穴が空いておらず、タンク内に入っている時に勝手にジュースが流れでません。そのため、ピジャージュ(櫂入れ)をすると同時にジュースが放出し、酵母がゆっくりと増えていき、発酵熱の上がり方も緩やかになります。

高温を長く保つことで、アルコール発酵による副産物としてさまざまな成分がより含まれ、ゆっくり冷めていくために複雑なニュアンスのジュースができあがります。

また、ワインの色が比較的薄くなってしまうのですが、人によってはそれを「美しい」と捉えることもできます。色合いが薄くなる要因のひとつにワインの酸度が低いというデメリットがあるのですが、薄過ぎず、濃過ぎず、「美しい」と思える色合いに仕上げられた全房発酵のワインに出会えた時は、見事…というほかありません。

とにかくブドウの質が良い

そして、全房発酵の最大の魅力は原料となる「ブドウの質が良い」ことです。例えば、普段全房発酵を推し進めているワインメーカーであっても、ミレジムによっては全房率を30%にしたり、全てを除梗するといいます。

全房発酵はブドウの全てを使って醸すため、梗が未成熟であったり、病気の疑いのあるものが多かったり、梗を使いすぎるとワインがダメになりそうな年には、全房発酵を避けるのは当然の選択です。

もちろん、腕の良いワインメーカーや裏技を知っているような生産者の場合は別かもしれませんが、基本的には「納得できるブドウを使える」というビンテージに全房発酵が採用されます。

つまり、素晴らしい全房発酵のワインに出会えたということは、最高品質のブドウを丸ごといただける機会を得た、といっても過言ではないのです。

全房発酵のデメリット

「全房発酵は複雑性に富んだ、凄いワイン」といった印象でお伝えしてきましたが、実はこの技法を取り入れるデメリットは山のようにあります。

まず、房を一緒にタンクに入れるため、粒の間に酢酸菌などのバクテリアを含む酸素が入りやすく、酢酸エチルが上昇しやすくなります。(酢酸エチルは必ずワイン中には存在しますが、好気性の酢酸菌によって発生した場合、ビネガーや除光液のようなオフフレーバーなることがあります)。

また、梗にはカリウムが多く含まれますが、これが酒石酸と結合して除酸を誘発。つまり、pHが上昇するためバクテリアにおかされやすく、腐敗酵母ブレタノマイセスに汚染され、“馬小屋”や“革製品”、“獣臭さ”を呈してしまうリスクがあります。

全房発酵を採用した以上、pHの上昇は避けられないために、常に汚染されるリスクがあることが、全房発酵最大のデメリットでしょう。

そのため、全房発酵で健全なワインをつくろうと思った場合、除梗したワインに比べ亜硫酸を多く使用しなければなりません。全房発酵というと、「ナチュラルなワイン」というイメージですが、実態はその対極にあるワインも出回っている可能性があるのです。

腕利きのワインメーカーを選ぶ

先述した全房発酵のリスクはごくごく一部で、まだまだ無数に存在します。しかし、それなのにもかかわらず高評価されるワインがあるということは、日本酒ではありませんが、「ワインメーカーの“腕”が優れているから」…ということに他なりません。

まず、微生物に対する高度な知識を持ち合わせていること、使用しているブドウやアペラシオンについて理解が深いこと、微生物汚染を防ぐための工夫を徹底して行っていることなど、ワインに対する造詣が人一倍深いワインメーカーを選ぶ必要があります。

例えば、「プリウレ・ロック」、「シャントレーヴ」、「フェルトン・ロード」、「ドメーヌタカヒコ」など、世界中には全房発酵の名手が多く存在しています。

それぞれ、ピノ・ノワールを全房発酵したワインではありますが、スタイルが全く違うため、飲み比べると非常に面白いと思います。ぜひ、チャレンジしてみてください。

ワインを「冒険」するということ

ここまで全房発酵について説明してきましたが、このワインのどこが良いのか、ということをお伝えするは難しいことです。

ワインメーカーによっても手順が違いますし、アペラシオン、国によってもその性格は全く異なります。

培養酵母を使うところ、自然酵母を使うところ、さらにマロラティック発酵のタイミングの違い…。当然、実態が掴みづらく、乱暴なようですが、いちワインファンとして「面白い」という表現しかできないのです。

正直、全房発酵については賛否両論あるようです。ブルゴーニュの生産者のなかには、「ジャーナリストに流されて、トレンドを追っているだけ」という方も多くいるようです。

とはいえ、「誰でも安心して飲める、適度に美味しいワイン」が多くなっている今、たまにはワインを「冒険する」というアプローチも飲み手としては必要なのではないでしょうか。ぜひ、全房発酵でつくられたワインに興味を持たれた方は、その実態を自分で確かめてみてください。

山梨県生まれの東京暮らし。フリーライター。音楽、ラジオ、ファッション、グルメなどさまざまなフィールドで活動中。甲州ワインに日常的に触れていたことで、知らぬ間にワイン通に…。ワインのちょっとした知識を小出しに紹介していきます。

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