【連載】デートで飲むシャンパーニュのウンチク(ポメリー編)

 

【 登場人物 】

葉山さん:ワインの世界を新しい切り口で教えてくれる、人気ワインライター

 

マナブ:社会人3年目、ワイン初心者で彼女募集中のイマドキ風な若者

 

金曜日の夜、恵比寿のワイン・バーのテラス席で、ちょっとチャラい青年が、オジサンから「シャンパーニュの薀蓄」を聞いている。

 

「ずいぶんお久しぶりっす。あれから、教えてもらったいろんなシャンパーニュを飲んでますよ。合コンでさりげなくシャンパーニュをオーダーして、さりげなく薀蓄を披露して、ちょっといい感じです(と胸を張る)」

 

「ん?本人が『さり気なく』と思っているうちは、他人から見ると、『わざとらしい』から気を付けたほうがいいよ。実は、私も20年前は...。じゃあ、今日は、わざとらしさのない薀蓄をテーマにしよう」

 

「(ん?『わざとらしさのない薀蓄』は、『正直な政治家』みたいなもんじゃね?と混乱しながら)『わざとらしくない』シャンパーニュ選びですか。是非、お願いします」

 

「まず、このシャンパーニュを飲んでみて」(ソムリエがマナブにグラス・シャンパーニュを持ってくる)

 

「(香りを嗅いで、一口飲み、)なんかイイっすね。スキッとしてて、夏にピッタリ合います」

 

「なかなか、いいだろ? これ、ポメリーのNV、『ブリュット・ロワイヤル』なんだよ」

 

「えっ!?ポメリーって、スーパーでも売ってる、あのポメリーですか?」

 

「そうだよ、あのポメリーだよ。どこででも売ってるんで、日常用の気軽なシャンパーニュだと思ってるだろうけど、本当はなかなかの実力者なんだよ。シャンパーニュ地方は、女性がビジネスで物凄く頑張っているんだ。だから、仕事を頑張ってる女性とシャンパーニュを飲みながら、これから言う話しをすると、かなりウケると思うよ」

 

「どんな話しなんですか?」

 

「例えば、ヴ―ヴ・クリコは、『クリコ未亡人』って意味で、若くして亡くなったご主人の跡を継いだんだ。その時、クリコ夫人は27歳」

 

「えっ、『ヴ―ヴ』って未亡人なんですかぁ。人の名前だと思ってました」

 

「ポメリーにも同じような話しがあるんだ。ポメリーの創立は1836年。日本じゃ、大塩平八郎が大阪で米騒動を起した前年だ。ご主人のルイ・アレクサンドル・ポメリーと二人三脚で頑張ってきたが、1858年に、ご主人が亡くなって未亡人になるんだ」

 

「じゃあ、『ヴ―ヴ・ポメリー』ですね」

 

「(マナブを無視して)その時、夫人は39歳。自分がシャンパーニュの事業を引き継ぐことにしたんだけど、当時のフランスは男尊女卑でね、今もそうだけど、女性がビジネスをするなんて考えられなかった時代だ」

 

「へぇ~!!」

 

「負けず嫌いの夫人は、そんな世間を見返すため事業を拡大しようとしたんだけれど、銀行が融資を渋った。これが引き金になって、経営状態がよくないとの根も葉もない噂が流れてしまったんだ。で、この状態を打開するために、マダム・ポメリーが大博打を打った。何をしたか分かるかい? ヒントは、夫人が芸術、特に美術好きだったこと」

 

「えっ、ここでいきなりクイズっすか? 正解したら、ポメリーを1本おごってもらいますよ。んー、夫人が芸術好きなら、アントニオ・ガウディに設計してもらってヘンテコな形のワイナリーを建てたとか、芸術家に依頼して、葡萄の樹をハートや星型に刈り込んだとか、ボトルを陶器にして綺麗な絵を描いたとか...」

 

「おいおい、ガウディとマダム・ポメリーは時代が違う。夫人が39歳の時、ガウディは6歳だから。とにかく、全部不正解ね。正解は、ジャン=フランソワ・ミレーが描いた超有名な絵、『落穂拾い』を30万フラン(現代貨幣で1億5千万円)で買ったんだ」

 

「えーっ!『落穂拾い』って、中学校の美術の教科書に載ってたあの貧乏臭い絵ですか?オレでも、ウチの猫でも知ってますよ」

 

「(そうそう、ミレーの絵は、確かに貧乏臭いよね。でも、9人の子沢山で、弟の面倒まで見てたんで、貧乏だったのは仕方ないんだよなぁ、と頷きながら)夫人の大胆さに圧倒された銀行が融資を申し出て、以降のビジネスはうまく行ったらしい。で、この絵はマダム・ポメリーの死後、夫人の遺言で、パリにあるオルセー美術館へ寄贈したんで、シャンパーニュの人々は二度ビックリしたらしい」

 

「えっ、なんで、寄付しちゃうんですか。オレなら、そんな超有名な絵だったら、『開運なんでも鑑定団』に出して、誰かに売ってしまいますけどね」

 

「夫人のスゴいところは他にもあるんだ。昔のシャンパーニュは、『泡と音が派手に出る甘口の飲み物』だった。言ってみれば、『アルコールを入れた三ツ矢サイダー』ね。これじゃ飯を食う時に飲めないというんで、最初に、今みたいな辛口を作ったのがマダム・ポメリーだったんだよ」

 

「マジっすか!?」

 

「ペリニヨン師がシャンパーニュの製法を確立してから200年近く経った1874年、シャンパーニュがやっと辛口になって、今みたいに食べ物と一緒に飲むお酒になったんだ。日本のスーパーで、そんな物凄い歴史のあるシャンパーニュを買えるって、スゴいことだろ?(と、遠い空を見つめる)」

 

「(目の前グラスを見つめる)えーっ!それは、大発明じゃないですか!?ポメリー夫人って、エネルギッシュでチャレンジングで大胆なんすね。ポメリーを見直しました」

 

「そう、ポメリーは新しいことをするチャレンジ精神の塊なんだ。主力の『ブリュット・ロワイヤル』の他にも、ストローで飲む『POP』なんて変化球も出してるんだ。注目してほしいのは、春夏秋冬用に作った、『スプリング・タイム』『サマー・タイム』『フォール・タイム』『ウインター・タイム』の4つだ。葡萄のブレンド率も変えていて、『サマー・タイム』はシャルドネ100%、『ウインター・タイム』は、黒ブドウのピノ・ノワールとピノ・ムニエだけみたいに、季節を意識した作りになっている。繊細だろ?」

 

「じゃあ、これからの季節、デートの時に、『ポメリーのサマー・タイムをください』って言えばカッコイイっすね。よし(と握りこぶしを作り、頷く)」

 

「オーダーするのはいいけれど、あくまでも『さり気なく』だよ。『暑いんで、普通のシャンパーニュじゃなくて、涼しそうなのを飲みましょう』とか言えればいいかな。で、ポメリーの薀蓄は、相手に聞かれるまで言っちゃダメだからな」

 

「わかってますよ」(といいつつ、熱心にメモを取る)

 

「もう一つ、ポメリー夫人がスゴいのは、ビジネスのパワーだね。シャンパーニュに多い『女傑物語』の中で一番に名前が挙がるのがマダム・ポメリーだ。ポメリー社では、マダム・ルイーズ・ポメリーの功績を讃えて、トップ・ブランドとして、『キュヴェ・ルイーズ』を出してるんだ。これがポメリー社の最高峰。異次元の美味さで、物凄くスタイリッシュだよ」

 

「へぇー!」

 

「独立してビジネスをしている女性への贈り物や、仕事を頑張ってるキャリア・ウーマンと一緒に飲む泡として、これほどピッタリな物はないぞ(と言って、マナブに目をやる)」

 

「確かにそうですね、これは上手く行きそうです、はい(と意味不明に力強く頷いた)」

 

「じゃあ、今夜はマダム・ポメリーに乾杯しよう」

 

二人はポメリーのブリュット・ロワイヤルで力強く乾杯。恵比寿の夜は、これからますます賑やかになる時刻だった。

シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など

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