ワインの底に何かが沈殿しているのを見つけて、不安な気持ちになった人は少なくないと思います。このワインの底に沈殿している、カスのようなものは「澱(おり)」といいます。今回は、「澱」についてご紹介します。
旨味のもととなる「澱」
この写真に見える紫色のカスは、時間が経つにつれワインの色素や渋味のもとである成分が、ボトルの底に溜まった澱です。ワインは熟成してゆくにつれて、まろやかで素晴らしい旨味が生まれます。そのもととなる酵母が働きを終えて発生したものも澱に含まれます。
ワインボトルの底が盛り上がっていますが、実はあの盛り上がりは澱を溜めるためなのです。特にボルドーワインに多く、そのためにボトルの形状は澱が入りづらい“いかり肩”タイプとなっています。
旨味の元とは言え、ワイングラスに入ってしまうと台無しなので、通常はグラスに入らないようにします。澱が多いワインの場合、開栓する5時間~1週間ほど前から、静かにワインボトルを立てて、澱がワインボトルの中を舞わないようにします。
ソムリエがランプでボトルの内部を透かしながら、ワインを入れるパフォーマンスを見たことがある人も多いと思いますが、あれは澱を丁寧に取り除くためなのです。
ワインのダイヤモンドと呼ばれる「酒石」
また、ワインの不純物として代表的なものとしては、他に「酒石(しゅせき)」があります。これはブドウ由来の有機酸である酒石酸と、ミネラルであるカリウムが結びついて発生したものです。
見た目は小さな水晶だったり、ガラスの破片のように見えますが「不純物は良くないもの」と思っている人は、白カビと見間違えてしまうこともあるそうです。
ワインに酒石が発生するということは、素晴らしい酸味を含んでいる証拠です。それゆえに「ワインのダイヤモンド」と呼ばれ、喜ばれるものでもあるのですよ。赤ワインの場合は、色素のアントシアニンが付着して赤錆や小さな釘にも見えたりしますが、これも白ワイン同様に、クオリティの高いワインに発生します。
フィルターで取り除いてしまうことも…
澱と酒石は、口に含んでも問題はありませんが、日本ではお酒を熟成させる文化がありません。そのため、澱や酒石を不純物として嫌う人が多いことので、メーカーがフィルターにかけて出荷している場合があるそうです。そうすると、旨味のもとである酵母まで取り除かれてしまい、熟成が見込めず、旨味の少ないワインになってしまいます。
そういった事情から、最近では敢えて「ノンフィルターでつくられている」ということを売りにしたワインが販売されていることがあります。とは言え、フィルターにかけられたほうが美味しい、新酒などの軽いワインもあるそうです。
ワインの中に、澱や酒石があった場合は「これは良いワインなんだな」と思って、そのワインが生み出す多彩な世界をお楽しみくださいね。
<参考>
「オーガニックワインの本」田村安(著)春秋社 P73より