海底で7ヶ月熟成させるとどうなる?海底熟成ワインSUBRINAの秘密に迫る

海底で80年間も眠っていたエドシック・モノポールや、18世紀後半に難破した船から見つかったヴーヴ・クリコなど、沈没船と共に長い間海底で眠っていたワインの話をご存知ですか?

長い間、海の底で眠っていたワインをテイスティングしたところ、まだ飲める状態だったという、ロマンティックな逸話です。そのワインは愛好家たちから珍重され、多くの人々の心を掴みました。

海底での“眠り”は、いったいワインにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

そんな新たなる熟成の可能性を求めた試み「Venusプロジェクト」が日本で行われています。南伊豆の沖の海底で7ヶ月間熟成させるというもので、既に多くのメディアにも取り上げられています。

今回はそのプロジェクト運営会社・株式会社コモンセンス代表取締役社長の青樹英輔さんに、海底熟成ワイン・SUBRINAの秘密についてお聞きしました。

様々なお酒を海底熟成していた海人

Q.やはり沈没船の逸話がプロジェクトのきっかけだったのでしょうか?

2007年頃、沖縄で恩納村漁業協同組合の代表を務める山城さんが、お客様へのプレゼントとして様々なお酒をサンゴの養殖基礎の下に固定して、海の中で熟成をさせていました。

その海底で熟成させた赤ワインを頂いて飲んだ時、とてもおいしいと感じたので、事業化できないものかと思い立ったのがきっかけです。

その後、コンセプトを詰めていく中で、沈没船などの情報なども出てきましたが、事業化した当時は沈没船の話などを知っている方は、ほとんどいなかったのではないかと思います。

Q.海底熟成を実施された南伊豆沖は、どのように選ばれたのでしょうか?

当初、沖縄での事業化を考えておりましたが、沖縄は潜水者が多く、セキュリティの問題がありました。また、夏場の海水温が30度を超えることもあり、違う場所を選定する必要がありました。

私自身、南伊豆町中木に20年ほど通っていました。そこで、地元のダイビングショップの方との出会いがあり、この取り組みに協力頂けることとなりました。課題だった海水温も、12度~16度程度とワインの貯蔵にもちょうどよかったのです。ただし、海はとても荒れる場所であり、ワインが流されないように固定方法などは苦労しました。

海底熟成に選抜された南アフリカのシラーズ

Q.海底に沈めたワインの選抜方法を教えてください。

インポーターのワインプレスさんと共同で、どのようなワインが海底熟成に適しているのか、ということを確認するため数種類のワインを沈め、熟成させる実験をしました。

その中で良い熟成をしたものはやはり体力があり、熟成に耐えるワインでした。白ワインでもいい方向に進むものもありましたが、インパクトのある赤ワインが第一弾としては良いであろうということになり、果実味の凝縮感がありタンニンもしっかりとあり、様々な香りを内包し、成長を期待できると思われる、がっしりとした体形のCLOOF社シラーズを選定しました。

果実味、タンニン、スパイスのアロマ、熟成香、それぞれしっかりと主張があり、バランスよくまとまりがあります。豊かでふくよかなワインではないかと思います。

海底熟成がワインに与える影響

Q.海底での熟成はワインにどんな影響を与えるのでしょうか?

一番わかりやすい点としては、アルコールの刺激が和らぐように感じる点だと思います。日本酒の酒蔵数社に参加して頂いている「海中熟成酒プロジェクト」(https://www.facebook.com/shusaronproject/)でも、プロの皆様が一様にその部分を指摘されます。

スピリッツの海中熟成実験でもその違いがさらに顕著で、どなたが飲んでも確実にわかるぐらいの違いがあります。また、元々アルコールで邪魔されていたのか、刺激が緩和されたことで、とても強くなった香りもあったように感じます。「開いた」と表現しても差し支えないのではないでしょうか。それ以外にも全体的にまろやかになったように感じます。タンニンや、酸、果実味など混ざり合うという表現がしっくり来るように思います。SUBRINAの販売前に比較試飲会を行った際にも、ソムリエの皆様がそのような表現をされていました。この原因については様々な検証を行いました。

慶応義塾大学の先端生命科学研究所の協力を得て成分分析をしたところ、アミノ酸や有機酸に変化があることがわかりました。アルコールの刺激がおさまることに関しましては、興味深い研究がこれまでにもたくさんあります。

例えば、超音波熟成の特許を持っている大手酒造メーカーがあります。科学的にはまだ解明されていませんが、音響を与えることで蒸留酒の分子の結合状態が変わりまろやかになるそうです。

科学的根拠があるわけではないので、私達の想像の域を出ませんが、これまでの実験などから海の振動が熟成に影響しているのではないかと考えています。

例えば、同じ酒を水深5m、10m、15m、20m、25m、30m、35mに沈め実験をしたことがあります。その際にどれも一様に同じような変化をしていました。

ここから想像するに、海底での熟成は紫外線や温度ではないように感じます。それ以外の要素としては振動以外にないのではないでしょうか。振動といっても瓶が揺れるわけではありません。音のような周波数です。海の中は波の音、石の音、鳴き声、様々な音が24時間365日あります。そして、空気よりも密度がとても高いので、遠くまで早く音が届く性質があります。振動もエネルギーです。それらが瓶の中に影響を与えているのではないかと考えています。

海底の秘密

Q.海底では温度が26℃にまで上昇すると拝見しましたが、CLOOF社のシラーズは熱さに耐えられる強さを持っているのでしょうか?また、逆にこのワインにとっての高温が、海底での素晴らしい熟成に一役買っているのでしょうか?

南伊豆は黒潮の影響もあり比較的温暖な水温の場所となっておりますが、26度は真夏の最高水温ですので、その時期は避けています。また、SUBRINAを寝かせた場所は川の水が入るため沖の海水温よりは2~3度程度海底の海水温が低くなります。

以前実測した際には11月~6月(実際にSUBRINAを海底貯蔵していた期間)の水温で12度~17度ほどでしたので、リストから2~3度引いたような水温であると想定しています。 

ちなみにSUBRINAの温度に関しては気を使っており、ボトルへの加工作業時にも15度で管理し、運搬にも輸入時はリーファーコンテナ、伊豆への搬送時も定温管理されたトラックで運んでいます。楽天での販売はヴェリタスさんに一任しており、ヴェリタスさんの倉庫も低温管理です。また、amazonでも昨年より定温倉庫が稼働したため販売することになりました。

楽天ヴェリタス SUBRINAの販売ページ

ご購入はこちら

実は当初、沖縄で数年間、様々な酒を海底に貯蔵する実験をしていました。沖縄の海水温は夏場30度を超えるため当然駄目になる酒もありましたが、ワインでも熟成向きなワインは全く劣化せず驚いたことがありました。タンニンや、酸、糖分などが豊富なワインは熟成に強く、そのようなワインはある程度ストレスがある環境でも成長するのだと実感しました。

Q.海外ではヴーヴ・クリコなどが海底、深度40m以上水温4℃以下、加えて長期間ワインを沈める実験を行っています。深度20mで温度がそれ以上になるVenusプロジェクトとは、そもそもの意図が違うように感じています。あえて、Venusプロジェクトが行われている環境を選ばれた意図を教えてください。

おっしゃる通り、ヴーヴ・クリコが海底熟成を行っているバルト海は水温も低く、塩分濃度も違います。

紫外線や温度の違い以上に私たちは振動の違いではないかと考えております。同じお酒を防波堤の外と中で同じ期間沈めたこともありますが、異なる印象を感じたこともあります。当然外の方の変化のほうが大きかったです。ですので、バルト海での熟成がどのような変化を及ぼすのかとても興味があります。

また、現実的な作業を考えますと40mという深海は人が作業を行う環境としては危険を伴う水深です。伊豆は外海に向いており海底でもしっかり固定しないと簡単に流されてしまいます。

そのような様々な条件より現在の場所を選定しております。また、海中では有害な紫外線は数mで大幅に減衰しますため影響もそれほど多くないと考えています。

Q.SUBRINAと、地上にある通常のセラーで同じ期間置いた同じワインの味わいの違いについて教えていただけませんでしょうか?

通常のセラー熟成のOKARINAは、元気いっぱいで若さと強さが前面に出ています。海底熟成のものは、ゆっくりと鼻に通っていく感じで味わいが調和し一体感があり、落ち着いて飲むことができます。

OKARINAは一般販売しておりません。抱き合わせ販売のようなことは想定しておらず、ソムリエさんを対象に比較試飲会を実施しました。

実際にSUBRINAをテイスティング

現在手に入る海底の秘密を蓄えた海底熟成ワイン・SUBRINAは2011年のヴィンテージで、2012年11月16日から2013年の6月19日まで南伊豆町中木沖にて、水深20mに固定された海底セラーで海底熟成されたものです。

コルクはコルク臭の問題発生とならない、予防性の高いDIAM特殊コルクを採用。さらに水圧によりコルクがボトル内に押し込まれることを防ぐ、海中耐圧試験にて深度100mでも海水の浸透がないシーリングワックスで瓶口周りがコーティングされています。

ボトルには海底に沈めていた際に、自然環境の影響で付着した紅藻植物等の石灰藻がアーティスティックにデザインされています。寝かされていた場所によってAタイプからDタイプの4種類のデザインが生み出されました。

また、ボトルは海上汚染を防ぐことと、ラベルが剥がれ落ちることを想定し、ヴィンテージとロゴをボトル表面に直接刻印したスタイリッシュなデザインとなっています。

今回はそんなロマンが詰まったSUBRINAを、テイスティングさせていただきました!

桜の花びらが散りばめられたような石灰藻

テイスティングには、桜の花びらのような石灰藻が少し付着しているDタイプのものを開栓しました。ちなみにAタイプからBタイプは様相が違うだけで、中身は全く同じものです。海の自然が描いた石灰藻は、白と桃色の桜の花びらのようにも見え、眺めていたら時間を忘れてしまいそうになるほどです。

まずは、軍手や皮手袋などを装着し、コーティングされていたシーリングワックスにソムリエナイフでしっかりと切り込みを入れ剥ぎ取ります。そこからは通常と同じ手順でコルクを抜き、グラスに静かに注ぎます。

冷蔵庫など冷たい環境で保管していた場合は、25℃前後の室内に1時間ほど置いておいてから開栓することを個人的にお勧めします。既に「開いた」状態であるワインは開栓した直後にまろやかで柔らかく、微かに塩気を感じる風味が鼻をくすぐりました。

色は濃いルビーからガーネット。粘度とアルコール度数はかなり高く、口に含むと重厚感の中にふんわりとしたミルクの風味を感じました。

タンニンはまろやかでカシスの果実味に加えスパイスの風味もあります。そして、酸味もしっかりとあり収斂性とミネラル香が口の中に広がります。石灰のような風味から微かな心地よい苦みも後味に広がりました。

開栓してゆっくりと味わっていくと、30分ほど経って今度はナッツが香り立ち豊かな表情を見せてくれたのでした。長い時間ミネラルを感じるものの、まるで良質なブルゴーニュを飲んだときのような滑らかなベルベッドを舌全体に感じ、底知れぬポテンシャルを感じました。

最後に

コモンセンスさんではワインだけでなく、日本酒やウィスキーをはじめとして様々なお酒を海底で熟成する試みを行い、その可能性について探っているそうです。

海は全ての命の起源とされています。その海で静かに眠りの時間を得たワインやお酒たちが素晴らしい熟成を遂げるのは、海からの叡智を持った人間への贈り物なのかもしれません。

陸上での熟成では味わうことのない心地よい海の恩恵を、ぜひ一度味わってみてはいかがでしょうか?

青樹さん、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!

海底で熟成されたワイン-SUBRINA

公式サイトはこちら

お酒と書籍をこよなく愛すワイン好きなライターです。ワインの魅力にとりつかれ、知識を深め、ワインエキスパートの資格を取得。「ワイン=敷居が高い」という既成概念を壊していきつつ、一緒にワインの楽しさを探っていきましょう。

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