マスカット系品種のあのフルーティーな香りのヒミツとは?テルペンについて知ろう!

リースニングやゲヴュルツトラミネール、トロンテスなど、マスカット系と呼ばれている白ブドウ品種で造られているワインがお好きな方は多いと思います。

これらの品種は、“華やかでフルーティー”と表現されることが多いようですが、実はブドウの段階では、これらの香りは無く、醸造の過程によって生産されていることをご存知でしょうか?

今回は、この香りの鍵を握っている、「テルペン系化合物」についてご紹介したいと思います。多くの日本人にも好まれている、マスカット系ブドウ品種の白ワインが呈する香りの「ヒミツ」を、ぜひ知ってください。

テルペン類とは?

少し眠たくなるような内容ですが、基本を知らないと後半に進めないので、まずテルペン類とは何かということを解説します。

テルペンとは、植物や動物、細菌類などに広く分布する、大きな化合物の一群のことで、イソプレン単位がいくつか繋がった構造を基本としてできている化合物です。

テルペン類でワインの香りに関与しているのは、主に「モノテルペン」です。この「モノテルペン」で重要な成分が、リナロール、ゲラニオール、ネロールです。また、別のテルペン類である「ノリイソプレノイド類」も影響を与えているとされています。

これらは、バラの香りやヤマユリの香り、柑橘類の香り、コリアンダー、スパイシーなど、ワインの香りにとって重要な役割を担っています。

さまざまなブドウ品種に「モノテルペン」は含まれているのですが、特に冒頭で紹介したマスカット系品種は他の品種に比べて揮発性テルペン濃度を多く有しているため、ワインになると華やかで個性的な香りを放つというわけです。

果皮に多く含まれているが…

この「モノテルペン」が多く含まれているマスカット系ブドウ品種ですが、特に多く含まれているのはブドウの果皮だ、といわれています。

しかし、これらの品種は面白いことにブドウの状態では、あの特有の香りを呈することは殆どなく、むしろ無臭です。

ブドウ中のより香り高い揮発性テルペンは糖と結合している状態、つまりグリコシド結合している状態で眠っているのです。(中には結合していない揮発性テルペンも含まれます)

酵素の働きで香り高いワインに!

では、何であの特有の香りが発生するのか。

実は、アルコール発酵などの過程で酵素の働き(加水分解)によって、グリコシド結合が解かれ、マスカット系ブドウ品種たちの特徴香が生産されるのです。また、一部の白ブドウ品種の中には、熟成が進むにつれて勝手にこのグリコシド結合が外れるものもあるようです。

ゲヴュルツトラミネールなどは、スキンコンタクトの時間を長くすると、よりその香りの濃度が高くなることが分かっており、スキンコンタクトを積極的に採用しているワインメーカーも多いようです。

より多くの香りを得るためには?

マスカット系のブドウ品種のポテンシャルを最大限引き出すためには、グリコシド結合を解き、より多くの香り成分を出すことになります。しかし、酵母の種類によってその量もまちまちであり、どのタイミングでグリコシド結合を外すのか、というのもポイントとなってくるようです。

そのため、まだまだこの分野の研究は進行中であり、その過程を追っているという状態です。

ただ、消費者にとってマスカット系の香りが多いほどに高品質と感じられるのであれば、今以上に面白い白ワインが出てくるという、明るい希望を持つこともできます。いろいろと難しく考えても仕方ありませんが、裏ではこのようなことも考えられている、ということを知っておくことも、ワインの楽しみのひとつです。

おまけ

「テルペンと香りの関係性についてはお腹いっぱいです、もう勘弁してください」と、いう方が多いと思いますが、まだまだ余力が残っている方に向けて、テルペンに関するトピックをひとつ、ご紹介します。

昨年、メルシャンがキリンのワイン研究所と共同で発見したと話題になったのが、「ブドウ果実への受光が、ワインに花のような香りを与える成分リナロールの生合成を高める!」(論文名: Effect of light exposure on linalool biosynthesis and accumulation in grape berries.)というもの。

このリナロールですが、冒頭部分で紹介した“花のような香り、バラのような香り”を呈するとして知られるモノテルペン類で、ドイツのリースニングには多く含まれている成分です。

この研究では、光を遮断するフィルムでブドウ果実を覆って栽培したブドウには、リナロールの蓄積が著しく抑制されることが分かったようで、その後に光を反射するマルチシートをリースニングの畑に敷設して栽培したら、リナロールの蓄積が増加した、ということが発表されていました。

ちなみに、この研究結果を活かした商品で「シャトー・メルシャン 大森リースリング2015」がリリースされていましたが、このように、テルペン類に目を向けた研究、商品開発も国内で行われているということで、一部関係者の間ではテルペン類に熱い視線が送られているのです。

ブラインドテイスティングにも役立つかも

今回、テルペン系化合物とマスカット系の放つ特徴香についてご紹介しました。ただのウンチクとして理解していただいても良いですが、このマスカット系の香りについて調べていくことは、白ワインのブラインドテイスティングにも役立ちます。

スキンコンタクトを経た否か、さらには日射量が多い地域のブドウなのか…など、なかなか導き出すのは難しいですが、少しは手がかりとなるでしょう。

ぜひ、お時間がある方は、テルペン類とワインの関係について調べてみてください。

山梨県生まれの東京暮らし。フリーライター。音楽、ラジオ、ファッション、グルメなどさまざまなフィールドで活動中。甲州ワインに日常的に触れていたことで、知らぬ間にワイン通に…。ワインのちょっとした知識を小出しに紹介していきます。

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