ブドウの品質でワインの品質もほぼ決まってしまう、と業界では言われているだけに、ブドウの栽培に影響すると言われる土壌について少しでも知っておいた方がいいのは確かです。しかし、醸造用のブドウ栽培に適している土壌は数多くあり、一度に全ての土壌性質を知るのは大変です。
今回は、土壌の基本として「粘土質」について、いろいろな角度から紹介したいと思います。ぜひ、参考にしてみてください。
粘土とは?
ワインにおける粘土質の土壌の特徴は「保水性のある土壌」などとされていますが、そもそも「粘土」という名は、地質学的な粒子の大きさによる呼び名のひとつであり、礫(つぶて)、砂、泥などを分類するために付けられた粒子名です。
粘土の構成粒子自体は大変小さく、極細粒砂が0.2~0.02mmに対して、粘土は0.002mm以下と非常に細かい粒子です。重厚感がある大きな粒子だと思われがちなのですが、地質学的には最も細かい粒子なのです。
そして、これに腐植土を合わせたものが土壌と呼ばれ、粘土質と腐植土が混ざったものが、「粘土質の土壌」として見なされる、と考えてください。
粘土には種類がある
粘土質の土壌には、いくつかの種類が存在します。まず、粘土は「カオリナイト」と「イライト」というグループと、「スメクタイト」と「モンモリロナイト」というグループに分けられています。
もちろん、ほかにも多く分けられているのですが、醸造用ブドウ栽培においては、これらの種類が重要と考えられています。
粘土の種類によってどのような違いがあるかというのが、陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity)略して「CEC」の値によって違ってきます。
CECは、土壌自体が陽イオン(カルシウム、マグネシウム、カリウムなど)を保持することができる量をさしています。一般的に、CEC量が大きいほど養分の保持力が大きく、土壌肥沃度(どじょうひよくど)の高い土壌であるとされています。
カオリナイトとイライトの場合、膨張性が低いために陽イオン交換能力が低くなります。一方でスメクタイトやモンモリロナイトは膨張性が大きいため、陽イオン交換能力が高いとされています。一般的に、CEC(meq/100g)あたり、カオリナイトは3~15程度、モンモリロナイトは80~150ということで、同じ粘土質でも、その種類によって大きく性質が違うことがわかります。
つまり、“粘土質の土壌で造られたブドウです”、と言ったところで、どういった種類の粘土質の土壌の畑なのかによって、仕上がるブドウの質も変わってくる、ということなのです。
ワイン造りに適した粘土質の土壌は?
良い土壌となると、CECが高い土壌が良いに決まっています。酸性、アルカリ性といった部分もCECに影響しますが、カオリナイトとモンモリロナイトでは、後者の方が土壌肥沃度(どじょうひよくど)が高く、健全な土壌状態がキープできると考えられます。
しかし、ワインについて勉強されている方であれば周知の通りですが、醸造用ブドウを栽培できる良い土壌とは「痩せており、水はけが良い」ことです。
CECが高いモンモリロナイトは、膨張、収縮性が高いため、たっぷりと水や無機物などを土壌に溜め込むことが可能です。
一方、カオリナイトは膨張や収縮はほとんど起こさないようです。結果、土壌肥沃度が高く、さらに水の保水性が良い素晴らしい系統の粘土質の土壌の場合は樹勢が強くなるため、良い土壌とは言えません。
しかし、あまりにも栄養分が無い土地、窒素不足、の場合であっても良いブドウはできないので難しいところです。粘土質土壌は、やはり良いワインを造るにはあまり適していないのでしょうか。
シャトー・ペトリュスでわかった、最高の粘土質の土壌とは?
前述したような粘土質の条件では、まずモンモリロナイト系は土壌肥沃度が高すぎるため論外である、というような結論になるのが一般的です。
しかし、ボルドー右岸の有名シャトー「シャトー・ペトリュス」のワインを生み出す畑は、なんとモンモリロナイト系のスメクタイト粘土と言われています。
さらにスメクタイト粘土を含む土壌としては村内随一であり、本来であれば右岸きっての平坦なワインが生まれていないと、おかしいシャトーなわけです。
しかし、結果はその逆。なんと、スメクタイトのような保水性が良い粘土の場合、水を吸って膨張することで、結果として土壌中の孔が塞がれ、ブドウの根が成長できずに水の吸い上げが難しくなるのだそうです。
もちろん、雨が振らなければ粘土は収縮するため、根は深く地下に伸びていきます。実は、シャトー・ペトリュスは肥沃だと思われている粘土質の土壌でありながら、実はブドウに十分な水分ストレスがかかっており、逆に理想的な粘土質の土壌になってしまっている、ということなのです。
粘土質の土壌がなぜか不人気?
シャトー・ペトリュスの土壌は素晴らしいですが、粘土質の土壌が全てこうとは限らず、やはり未だこの土壌からは偉大なワインはできない、と思っている方も少なくはないようです。
さらに、そのことに拍車をかけているのが、近年の「土地の味わいがするワイン」を目指す潮流です。いわゆる「ミネラリティ」を感じるような、繊細でアルコール度数が低めのワインが世界的なトレンドであり、石灰質や花崗岩、玄武岩、シスト、スレートなど、これらの痩せた土壌が注目されているからです。
そもそも、ミネラリティを感じにくいワインができると言われているのが、粘土質、砂質、レス土壌です。
ミネラリティを感じるといえば、ブルゴーニュ系の白ワインですので、石灰質の土壌に注目が集まるのは当然であり、ボディが強く、香りにも重厚感のあるボルドー系に適した、粘土質や砂質土壌が見向きもされない、という流れは自然ともいえます。
粘土の役割は重厚なワイン造りではない?
粘土質の土壌で有名な産地といえば、ボルドーの右岸をはじめ、スペインのリオハやリベラ・デル・ドゥエロ、ナパ・バレーの山腹、バロッサバレーなどでしょう。
これらの産地も近年、醸造工程などで、繊細な造りのワインも増えてきてはいますが、やはりイメージとしては、重めの赤ワインを生産する銘醸地といったところです。
となると、粘土質の土壌は今っぽくないワインを造る土壌なのでしょうか。実は、ブルゴーニュ地方の多くは、泥灰岩(マール)という粘土石灰岩土壌であり、キャンティの一部も粘土石灰岩の土壌です。
キンメリッジアン土壌で有名なシャブリなどは、硬い石灰岩と泥灰岩で構成されており、この泥灰岩が多く含まれていることは、重厚な粘土質寄りの土壌である、と言うことができます。
痩せた石灰質の土壌に比べて、ストラクチュアがしっかりとしたワインが生まれるようです。このように、粘土質の土壌は重厚なワイン造りだけに最適である、ということではなく、石灰質土壌や他の土壌と、どのような割合で構成されているのかも重要なポイントなのです。
土壌を知ると少しワインが楽しくなる?
今回、粘土質の土壌を中心にワインと土壌の関係をお伝えしてきました。ただ、ワインに土壌がどれほど影響しているのかは、まだまだ謎が多く、専門家たちによる研究がすすめられています。
ある程度は当たっているのでしょうが、粘土質=重厚でまろやかなワイン、石灰質=繊細でミネラリティを感じるワインという、ステレオタイプ的な知識でワインと土壌の味わいを結びつけてしまうのは、ワインをつまらなくしているような気もします。
同じ土壌から造られたワインでも、手掛ける醸造家によっても味わいが違いますし、天候や気温、さらにはその栽培法によってもワインの味わいはいろいろと変わってくるでしょう。
ひとつの手がかりとして土壌については知っておき、それを頼りに様々な見解を自分なりに探ってみましょう。