日本ワインも国産ワインも同じ意味で使用している人が多いようですが、この2つには明確な違いがあることを知っていますか?
実は、この2つのワインの明確な区別ができたのは最近のことなのです。今回は、そんな日本ワインと国産ワインの違いについてご紹介します。
日本ワインと国産ワインの違い
ほとんどの人が、日本ワイン、国産ワイン共にイメージするのは「日本で栽培されたブドウが原料」で「国内で醸造された」ワインではないでしょうか。ところが、これは「日本ワイン」のことを指します。
では、「国産ワイン」とは何なのでしょうか?
国産ワインとは、「海外から輸入したブドウや濃縮果汁(海外産ブドウ)が原料」で「国内で製造された」ワインを指し、日本ワインとは明確に区別されています。
海外産ブドウが原料なら、それはその国のワインじゃないかと思いますよね。しかし、ワインは製造された場所の技術も強く反映されるために、このような言い回しがされているようです。
2015年に違いが明確になった
「日本ワイン」と「国産ワイン」の明確な基準が設けられたのは2015年のこと。ヨーロッパをはじめとするワイン製造に盛んな諸外国が、はるか昔から設けていたワイン法を、日本でも2015年10月に制定したことで日本ワインの基準が明瞭化されました。
この背景には日本でのワインの消費量が増加していることに加え、日本ワインの高品質化に伴った「偽物」登場の懸念や、日本ワインのブランド力向上を目指す姿勢などがありました。
とは言え、2015年に至るまで、国内のワイン愛好家や専門家たちからは「原料が日本産ブドウなのか海外産ブドウなのかは大きな違い。明確に区別すべき」という声が多く上がっていました。
そして、2010年にサントリーワインインターナショナルが「日本ワインは日本のブドウで造ったワインとする」と表明したことをきっかけに、日本ワインの基準が人々に意識されるようになり、ワイン法で基準が設けられるようになりました。
日本のワイン法とは?
2018年に施行される日本ワイン法では、日本産ブドウのみを原料とし、国内で製造された果実酒を「日本ワイン」、原料が日本産ブドウとは限らない「国内製造ワイン」、海外から輸入された「輸入ワイン」を明確に区別しました。
それと同時に、「日本ワイン」の場合はラベルに「日本ワイン」と表示することや品目、原材料名及び原産地、製造者、製造場所在地、内容量、アルコール分の表示が義務づけられるなど、消費者にとってそれぞれのワインが何なのか、違いがわかりやすくなりました。
また、産地は地域名を表示する場合、その地域で栽培されたブドウを85%以上使用している場合のみ認められ、ブドウに色濃く反映される風土をしっかりと消費者に伝えられるよう配慮されています。
日本でも「日本ワイン」のテロワール、すなわち原料となるブドウが栽培された土地の性格と共に、繊細な醸造技術を世界にアピールしたいという目的がワイン法制定の背景にありました。
日本風土とワイン
かつて日本は昼夜の温度差が少なく、湿度も高いためにワイン造りに適していないとされていました。ワイン製造と言えばヨーロッパが主流で、それに準じるニューワールドの銘醸地は気候風土がそれに適した場所ばかりです。
しかし、日本のブドウ栽培技術やワイン醸造技術が目覚しく向上したことや元来の勤勉な国民性がそもそも緻密なワイン造りに適していたこともあり、中央葡萄酒株式会社(山梨県甲州市勝沼)のGRACE WINEの国際的な賞での受賞などで世界的な評価が一転し、日本ワインのレベルの高さが注目されるようになりました。
日本では北は北海道、南は鹿児島県までブドウが栽培されています。ブドウ栽培に向かないとされてきた日本の標準的な風土は避けられ、基本的に夜間に気温が低く降水量が少ない盆地の、特に水はけがよい扇状地でブドウが栽培されています。
地質や土壌の特徴とワインの味わい
地質や土壌(例:石灰、白亜、粘度、花崗岩、砂利など)はワインの風味や味わいに大きく反映します。同じ品種でも、この違いで別物のようなワインになることは、ワインを楽しむ上で大きな発見と気づきをもたらします。
日本の気候風土をご紹介する前に、地質や土壌がワインにもたらす影響の違いをご紹介したいと思います。
ちなみに地質とは、地面の下にある岩石や地層の性質、状態、種類のことを指し、その上の表土を土壌と言います。一般的に土壌は粘土か鉱物類が多いようです。
地質
・石灰質
ヨーロッパ全土に多く見られる。酸味がエレガントで柔らかなワインになる。
・白亜質
フランス・シャンパーニュ地方を代表としてフランス北部などに見られる地質。石灰質の一種で、白亜紀に堆積した地層を含む。華やかな酸味がエレガントで凛としたワインになる。
・片岩質(シスト)
フランス・ラングドック地方やアルザス地方に見られる地質。結晶質の変成岩、すなわち剥がれやすい薄い岩を含む。ミネラルに満ちていて高貴で上品、開くまでに時間がかかるワインになる。
・花崗岩質
フランス・ボジョレー地区の中でも高品質な地区(クリュ・デュ・ボジョレーやボジョレー・ヴィラージュの一部)に見られる地質。石英、カリ長石、斜長石、黒雲母から成り立つ、荒い粒の揃った岩石を花崗岩といいます。柔らかくバランスの取れた、ミネラル感がスマートな香りのするワインになる。
・火山岩質
イタリア北部に見られる地質。アロマが活き活きとしておりアフター(後味)に果実味が強く残るワインになる。また、火山灰のようなスモーキーさをもたらすこともある。
・砂岩質
フランス・コート・デュ・ローヌ地方南部などに見られる土壌。ミネラルが少なく熟成感が強く、スパイシーなワインになる。
・泥灰岩(マール)
粘度と石灰が混ざった岩。ジュラ地方、アルザス地方、ブルゴーニュ地方に多く見られる。石灰質と粘土の両方の特徴を持つ。(※代表的なもののみ)
土壌
・粘土質
フランス・ボルドー地方右岸に見られる土壌。土壌がひんやりしてブドウがゆっくりと熟すためタンニンと酸が豊富になり、ずしんと重く、グラマラスなワインになる。栄養を多く含む。
・鉱物
フランス・コート・デュ・ローヌ南部のシャトーヌフ・デュ・パプに見られる砂利質など。果実味が強く出る。
・火山灰質
イタリア・エトナ火山や日本に多く見られる土壌。砂質と粘度質が混ざり、保水性、排水性に優れている。活き活きとした酸が感じられる。
日本のワイン産地の気候風土
地質や土壌がそれぞれ組み合わさり、混ざったりもしてその土地の性格をワインに反映させます。さらに地形や気候によっても、味わいや風味は変化するため、ワインの個性は無限大なのです。
それでは、日本の代表的なワイン産地の気候風土をご紹介したいと思います。
山梨県
言わずと知れた日本一のワイナリー数を誇る「ワイン県」。日本を代表するワイナリーが多数所在しています。気候は昼夜、夏から冬の気温差が大きく降水量が少ないためにワイン造りに非常に適しており、甲州とマスカット・ベーリーAが多く栽培されています。
主な産地は4ヶ所で、特にワイナリーの7割が集中する甲府盆地東部は基本的には標高が高くなるにつれて粘土質を含みます。
特に銘醸地である甲州市勝沼町の勝沼地区は褐色低地土(非常に水はけがよく水田に多く見られる)と火山灰質で、勝沼町でもっとも標高の高い菱山地区は冷涼で粘土質です。
長野県
山梨県に次ぐワイナリー数を誇り、2013年には「信州ワインバレー構想」が掲げられ、県を挙げて県産ワインプロモーションなどの様々な支援が行われています。
中でも銘醸地として有名な塩尻市は標高が高く日照時間が高い為、昼夜の寒暖差が多く降水量も少ないという、ブドウ栽培に適した気候です。
土壌は火山灰質で水はけも良好。力強く果実味豊富でスパイシー感もあるワインを生み出します。
長野県と言えば塩尻のメルローが有名ですが、他にもマスカット・ベーリーAやシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのヨーロッパ品種も盛んに栽培されています。
北海道
湿度が低く昼夜の寒暖差が大きい北海道では、ヨーロッパ系ブドウ品種の栽培が盛んです。からっとしており梅雨もなく、台風が襲来することも稀です。岩見沢、余市、北斗は平均気温がフランス北部以上に低いため、日本でも他の地域にはないワインを生みだすことができると言われています。土地が広く、他の地域に比べて地価が非常に安価であるためにブドウ園の面積も広大です。
キャンベル・アーリー、ナイアガラの栽培が多い、ワイナリー数は増加傾向にあります。
土壌は火山灰質に加え、粘土質も見られます。
まとめ
例えば、ワインの専門家の中にはブラインドテイスティングで、それがどこで栽培されたブドウを使用し、どこで製造されたワインなのかをピタリと当てることができる人もいます。「その土地と言えば、こういう味である」ことが世間的に認知され、味わいが確立されているからです。
それは、長い間その土地の人々が、ワイン製造とプロモーションに尽力した結果勝ち取った「ブランド力」だと言えるのではないでしょうか。
今日本は、その「ブランド力」を手にするため「日本ワイン」を世界に打ち出そうとしています。
「日本ワイン」と「国産ワイン」(国内製造ワイン)を明確に区別することは「日本の○○ワインと言えば、この味である」ことを世界に知ってもらうための第一歩と言えるのではないでしょうか。
<参考>
・産地で見る日本ワイン|日本ワイン サントリー
・GRACE WINE 受賞歴・ニュースレター | 株式会社フィラディス(Firadis)
「[2015年1月号]特別セミナー『テロワール概論 ~テロワールを理解する~』(講師:大越 基裕氏)」