前回は、粘土質土壌についてご紹介させていただきました。
粘土質土壌と言っても、「カオリナイト」と「イライト」というグループと、「スメクタイト」と「モンモリロナイト」というグループに分かれており、陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity)の値によって、水はけや栄養保持能力が違う、というような内容でした。
そんな粘土質土壌以上に重要視されているのが「石灰質」の土壌です。今回は、石灰質の土壌についてご紹介します。
石灰質の土壌とは?
そもそも「石灰質土壌」って何だろう?と、思っている方は多いかもしれません。石灰質土壌とは、炭酸カルシウム(CaCO3)など、炭酸塩を多く含んでいる石灰質の堆積土壌のことです。石灰質の土壌といっても、「粘土石灰岩土壌」や「ケイ質の石灰岩土壌」があったりと、その性質や構造によりブドウの生育が変わってくるといわれています。
石灰質の土壌の産地
ブルゴーニュをはじめ、石灰質の土壌で栽培されてるブドウからは、良質なワインが生まれるようです。その証拠に、石灰質の土壌の代表的な産地として、スペインのリオハ、イタリアのピエモンテやトレンティーノアルトアディジェ、カリフォルニアのパソロブレス、フランスのロワール、アルゼンチンのメンドーサがあり、どの産地も最高のワインを生み出すことで知られています。
また、石灰質と聞いた時、ほとんどの方が「シャブリ」をイメージすると思いますが、シャブリやアルザスの周辺は、中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀などの土壌で構成されており、その土壌の影響か、非常に個性的な味わいのワインを生み出し続けています。
それでは、石灰質の土壌の注目すべき特徴を見ていきましょう。
保水力&排水性に長けている
まずは、保水力や排水性に長けている点です。基本的にカルシウムを主成分としていることから、ブドウにとっては理想的な保水性を持っているといえます。石灰質の土壌の科学的な構造は、乾燥した時期はしっかりと水分を保持しながらも、雨が降ったらしっかりと排水できる、というものでブドウ栽培には最高に適しています。
pHが高い
石灰質層の土壌は、pHが高いことで知られています。一般的な表土のpHが5.5〜6.0程度であるのに対し、石灰質層の土壌はpHが8を超えている場所もあるほどです。
粘土質土壌の際に、CEC(陽イオン交換容量)について簡単な説明をしましたが、石灰質土壌の底に吸着している養分量をあらわしている塩基飽和度が高く、要するに陽イオン交換が大きいことがわかっています。pHが高く、カルシウムが豊富であることから、栄養摂取に優れてるというところも、石灰質の土壌の特徴です。
ちなみに、土壌のpHを上げるために石灰を撒くこともあるようですが、たくさん畑に撒いたところで、これといって石灰質の土壌らしいブドウ、ワインができるわけではないようです。
ブドウの酸性度を保つ&耐病性
カルシウムが豊富なブドウは、栽培期の後期に酸性度を維持するということが、ボルドー大学の研究で示されました。カルシウムが豊富な土壌や、十分な水分を含む土壌の場合、より酸度の高いブドウ、pHの低いワインが生まれる、という報告です。
また、耐病性のあるブドウを作るためには、カルシウムが必須であるといわれています。カルシウム自体はブドウの果皮に多く含まれており、強靭な細胞壁をつくり、ブドウを病害から守ります。カルシウムが不足してしまうと、ブドウは細胞内のカルシウムを優先してしまい、果実自体の酵素、病害などによる悪影響を受けやすくなる報告されています。
ミネラリティとは?
石灰質の土壌について触れてると、どうしてもミネラリティの話を避けるわけにはいかなくなります。「ミネラリティ」と表現されるワインの多くは、石化質の土壌でつくられたワインがほとんどです。
その他、花崗岩や玄武岩、シスト、スレートといった土壌のワインでも表現されていますが、主に石灰質の土壌と考えても良いでしょう。鉱物っぽい感じ、塩味、ほこり、鉄、岩っぽさ…など、石灰質のあの硬いイメージから、どことなく土壌から来る味わいのような感じを与えています。しかし、科学的には残念ながら、揮発性硫黄化合物の影響から来る風味をミネラリティと捉えている、という説が一般的です。
メルカプタンをはじめ、ジスルフィド、硫化ジメチルなどで、こういった揮発性硫黄化合物は、ワインにキャベツやニンニク、さらには火打石、岩っぽさを与えます。窒素不足な土壌だからこそ、という意見もあり、まだまだ研究が続けられていますが、この「ミネラリティ」を感じさせるワインが生まれるのは、石灰質の土壌であることは間違いなさそうです。
まとめ
今回は、石灰質の土壌についてをお伝えしました。粘土質土壌で生まれたワインは力強い、石灰質で生まれたワインは、「繊細でテクスチャーがしっかりとしている」というような例えられ方をします。ただ、前情報が一切無い状態で同じ品種の土壌別のワインを飲み比べると、新しい発見があるかもしれません。
これは醸造法による違いもあるので、一概に土壌を結びつけるのは難しいですが…。とにかく、石化質土壌の基本もわかったところで、ぜひ、機会がある方は、ブラインドテイスティングで試されてみてはいかがでしょうか?