私たちが日頃飲んでいるワインの多くは、樽かステンレスタンクで発酵・熟成が行われています。一部、コンクリートタンクや甕(かめ)仕込みなどされているものもありますが、市販されて造られているワインのほとんどが、樽かステンレスタンクで仕込まれている、と考えて良いでしょう。
さて、その中でも樽に関してはさまざまな情報が散見されますが、ステンレスタンクとなると、「フルーティーさを大事する白ワインに使用されている」くらいの情報しかありません。そこで今回は、ステンレスタンクについて考えていこうと思います。
ステンレスタンクとは?
ステンレスタンクとは、ずばりステンレス素材を使用したワインなどを貯蔵できるタンクです。
国内外のワイナリーに遊びに行ったことがある方であれば、ビッグサイズのドラム缶のようなものがイメージされるでしょうが、実は樽をモチーフにした形や卵っぽい形のものなど、いろいろな形があります。
さらに、200ℓ、500ℓ、2,000ℓなどサイズも多種多様で、ワイナリーのスタイルによっても自由にさまざまなタイプのタンクを選べるところがメリットです。
ステンレスタンクは密閉性が高いため、外気からの影響を受けにくいため酸化を防止する効果があり、一部の白ワインを除き、ほとんどの白ワインにステンレスタンクが採用されています。
逆に、酸化しにく還元的環境をつくれるために、フレッシュさを狙った一部の赤ワインでも積極的にステンレスタンクが採用されているようです。
ステンレスタンクのメリットは?
ステンレスタンクのメリットは、前述したように外気からの影響を遮断できるため、タンク内のワインを酸化のリスクから守ることができる、というところです。
また、ステンレスタンクの仕組みとして、常に一定の温度をタンク内で保てたり、温度が造り手の意思に裁量によって自由に調節可能である、というところです。
ゴロ付のタイプであれば、自由に移動させることもできるので、生産者にとってはとても嬉しいアイテムでもあります。
経済的である
ステンレスタンクは、大量生産ができる金持ちワイナリーのための特別な秘密兵器というイメージを持つ方がいるようですが、実は非常に経済的です。樽の場合、フレンチオークが大変高級であることで知られていますが、実は樽の寿命は約3年と言われています。
近頃では、古樽をあえて使う生産者も増えていますが、ブレタノミセスなどの細菌汚染の危険もあり、相当な経験が必要です。結果、ほとんどの生産者が危険なワイン生産を避けるために、3年前後で樽をどんどん買い替えなければならないのが現状となっています。
一方、ステンレスタンクの場合、長年に渡り亜硫酸を大量に使用し続けたり、清掃が不行き届きで無い限り、寿命は相当長く経済的です。長い目で見ると、コストが10倍以上は違う、とさえ言われています。
ステンレスタンクで得られないもの
ステンレスタンクのメリットは、前述したもの以外にも、余計な風味をワインに与えません。
還元的な作用から発生するチオール系の香り、フルーティーなエステル類由来の香りなどは別として、外気から影響を受けたり、細菌汚染などから発生するオフフレーバーなどはつきにくい、ということです。
逆に、ステンレスタンクは樽由来のフレーバーを享受することができません。樽由来のフレーバーとは何か、香りも含め簡単にご紹介します。
【樽由来のフレーバー】
・ラクトン…ココナッツ様の強い樽香。シス異性体の場合、草や土臭さ。トランス異性体はココナッツやスパイシーさ。
・バニリン…樽と言えばの、天然バニラの香り。樽熟成したワインの中で、最も特徴的な香り。
・グアヤコール…スモーキーさ、スパイシーさを感じさせる。
・オイゲノール…揮発性フェノール。クローブの香りは、このオイゲノール。
・フルフラール…アーモンド、キャラメルなどの香り。
その他、加水分解型タンニンのエラジタンニン、桂皮酸誘導体のクマリンなど、ワインのストラクチャーや風味に影響を与える成分も溶出されます。
オークチップで解決?
ステンレスタンクを使用したワインなのに、なぜか樽熟成の風味がある。そんなワインがありますが、オークチップを利用した場合、樽熟成ほどの効果は得られないものの、風味程度であれば付け加えることが可能です。
案外、世界中に存在する多くのワインはオークチップが積極的に使用されており、それっぽいワインをキレイな状態で造ることができるようになっているのです。
日本ワインを名乗るワインも、実は2018年からオークチップの使用が許可されるので、面白いワインが多く誕生するかも…しれません。
ワイン醸造は面白い
今回、簡単ではありますが、ステンレスタンクについてを解説していきました。
ステンレスタンクのワインの方がカジュアルなイメージはあるのですが、樽同様に醸造の仕方によっても味わいが大きく変わってきます。ワインというと、「樽」について考えがちですが、ステンレスタンクだからこそ得られる風味についても、研究してみてはいかがでしょうか。