え?ニューヨークで?ワインを?造ってるの?
ワイン愛好家でさえも「?」を連発するほど、そのワイン事情は日本では伝えられていません。でも、実は、ニューヨーク(以下NY)州は、約1億8000万本という、カリフォルニア州、ワシントン州に続く全米3位の生産量。354ものワイナリーが個性を競う一大ワイン生産地なんです。
ワイン造りの歴史自体は古く、1839年に全米初の商業生産ベースのワイン生産が行われていますが、本格的に生産が始まり広がっていったのは1976年。最近ではアメリカ版地産地消ともいえる「LOCAL」というムーヴメントの中、マンハッタンやブルックリンでもヒップなエリアではNYワインは注目が集まっています。
このエリアでテイストとスタイルが認められたということは、日本で広がっていくのも時間の問題。ということで、2回に分けて、実際に現地でインタビューしたいくつかの個性的な生産者を紹介していきましょう。
フィンガーレイクス編
東北部、カナダや五大湖に近い、氷河期に形成された大小11の湖からなるフィンガーレイクス。118のワイナリーが集い、NY州におけるワインの90%が生み出されるメインエリア。冷涼な気候を生かした、傑出したテロワールから生まれる、リースリング、ピノ・ノワールが中心。
古典的と新進気鋭、そのどちらのワインメイカーも口を揃えていうのは「レイク・エフェクト」。湖がもたらす空気の流れが、暑さと寒さ、湿気を美しく撹拌し、冷涼による酸と潤いのある果実味の両方を与えてくれます。
ハート&ハンズ(Heart & Hands Wine Company)
手入れしすぎない。だからこそ自然に対するストイックさと優しさが同居する畑に、飾らないブティック。でもどこか洗練。夫人はコンサルタントで全米を飛び回って、ご主人がワインメイカーというテレビドラマに出てきそうなご夫婦。
アメリカ文学の1シーンを見るようなワイナリー。珠玉は「バレル・リザーブ ピノ・ノワール 2010」。「NYワインの洗礼でありその深みにはまるための通過儀礼的アイテム。ピノ・ノワールの常識を疑いたくなる凄みをまとったった静かなるヴァイオレンス。美しさとその中で燃え盛る欲望がもたらす心をかき乱す余韻。
アメリカ文学、ポール・サイモンのダークサイドなリリックとサウンドに、ブルース・スプリングスティーンのリヴァーが聞こえながらも、どこまでもジョージ・ウィンストンのピアノの調べ。混乱が快感に変わる」(私のブログでのレビューから)。
フォックス・ラン(Fox Run Vinyards)
同じくフィンガーレイクス。こちらのドライ・リースリングは、日本人の感覚からすると突出したアシッド(酸)。でもその酸味が体にしみこんでいくと、体の中からじわーっとしみじみした気持ちになっていく不思議...オバマ大統領の第二期就任記念昼餐会でも提供されたプレスティージュクラスのドライ・リースリングで全米的にも注目されました。
ワインをお酒というだけではなく健康飲料としても考えていて、他にもこの畑を使ってニンニクを栽培。ニンニクを使った料理とワインをあわせた「ガーリックフェスティバル」を毎年開催しています。
ハーマン J. ウィマー(Hermann J. Wiemer)
ブドウ栽培とワイン醸造学にも注力するアイビーリーグの名門・コーネル大学。ここで同窓だった陽気なディレクター・オスカーとインテリジェンス溢れる芸術家・フレデリックのタッグが生み出すのは、NYのトップソムリエからも「NY最高」と言わしめるリースリング。
氷河時代から現在までに培われたフィンガーレイクスの豊かな土壌と湖がもたらす光と風を、緻密な計算で区画ごとに栽培、醸造を変えるという果敢な挑戦を続けています。理系と文系の素晴らしき融合から生まれるスタイリッシュなワインです。
おわりに
レシピを中心として、すぐに楽しめる内容を提供している家ワインコラム。その中で当コラムでは、世界で、日本で、まだポピュラーではないけれど、素晴らしいワイン、ワインメーカーを紹介することを通じて、ワインの幸せな世界をお知らせしていきたいと考えております。