ワインと料理のマリアージュ。誰もがイメージする「肉には赤ワイン」などの定番の組み合わせだけではなく、料理とワインの楽しい組み合わせは無限です。しかし、いざワインに合う料理を用意しよう!と思うと、無理矢理洋風にしたり、オリーブオイルやホワイトソースなどを組み合わせて、それっぽくして終わり…という方は少なくありません。
「本当にこれでいいのか良くわからない…」と、毎回思っている方は、今後「ワインの香り」に着目してみてはいかがでしょうか。実は、ワインに含まれている香りを利用すると、合わせやすい料理や食材がわかるようになってきます。ぜひ参考にしてください。
ワインに含まれている香り
「ワインの香り」といっても、その種類は数百種類に及びます。突出してくる香り成分と、そうで無い香り成分。組合わさったことで感じられる香り成分など、さまざまです。
デイヴィッド・レインという研究者によると、どんなに複雑な香りが混ざり合っていようが、一度に人間が嗅ぎ分けることができるのは、せいぜい4種類程度なのだそう。今回は、ワインテイスティングで嗅ぎ取る香りについてのコラムではないので言及しませんが、ワインに合わせる料理を考えた時、この4種類程度の香りを取り出し、それを元に料理内容や原料を決めるというのも良いかもしれません。
赤ワインの香り
赤ワインに含まれている香りの成分の多くは、樽由来のものになります。もちろん、品種特性の香りも相まっているので、香りは大変複雑です。オイゲノール由来のクローブ(丁字)、ココナッツのようなラクトン類、バニラ香を放つバニリン、ピノ・ノワールに含まれているといわれるβ-イオノンはスミレの香りです。
一般的な赤ワインに感じられるとすれば、チェリーやラズベリー、カシスなどの果実由来の香りです。また、シラー種に多く含まれていると言われている、ロタンドンはあの黒胡椒の香りを放ちます。さらに、カベルネソーヴィニヨンやメルローなどは、ピーマン様の香りを放つ、メトキシピラジン類が含まれます。赤ワインの香りは、まずこのあたりを押さえておけば良いでしょう。
白ワインの香り
白ワインの香りは、フルーティーな香り成分、というのが印象としてあるかもしれません。以前、コラムで紹介したテルペン系の香りも白ワインには多く含まれています。ゲヴュルツトラミネールやリースニングなど、マスカット系のブドウ品種は、これらの香りを多く含みます。
リナロール、ゲラニオール、ネロール、ノリイソプレノイドなどは、バラの香りや青リンゴ様の香りを放ちます。また、ソーヴィニヨン・ブランで良く知られている、3MHや3MHA、4MMPなどは揮発性チオールと呼ばれており、グレープフルーツや柑橘系の香りを呈します。樽熟成を経たシャルドネは、酵母が自己消化したことで起こる独特の硫黄の香りや、樽由来のアーモンド様の香りが楽しめます。
香りと料理の合わせ方
では、ここからはワインと合わせる料理について考えていきます。白ワインの場合、香り成分から柑橘系やハーブ様が楽しめます。つまり、これと似た香りを持つ調味料などを食材に振りかけると、喧嘩せずにすんなりマリアージュすると考えられます。
例えば、白ワインは醸造工程による酵母の働きにり、「カプロン酸エチル・酢酸エチル・カプリン酸エチル」が発生します。これらは、洋梨やバナナなどの香りを想起させますが、チーズも同様に熟成を経ていくと、フルーツの様な香りを呈する脂肪酸エチルが生成されるため、ここに果物の香りを持つ成分同士が良い相性を示すわけです。
赤ワインの場合は、「ジャム」系の香りを感じさせるものが多くあります。さらに、樽由来のラクトンは肉にも含まれる香りであったり、黒胡椒のスパイシーさも含まれるものもあるなど、やはりスパイスを振りかけた肉類にはもってこいです。ワインと共通する香りを持つ、食材や調味料に視点を向けると、マリアージュを探しやすいのです。
マスキングや香りをつなぐことの効果
また、どんなに香りの相性が良くとも、食材や調理工程で独特の香りがワインとの相性を邪魔する、ということがあります。例えば、魚です。シャトー・メルシャンの田村さんの研究で明らかになっていますが、魚に含まれる鉄が過酸化されたEPAとDHAという不飽和脂肪酸の仲間が混ざることで分解され、それがワインとぶつかると異様な生臭さを感じさせる、という結果です。
また、生ガキが主成分は、グリコーゲンであることや乳酸が多く含まれていことが関係して白ワインと合いません。しかし、これにオリーブオイルやレモンをかけることで、ワインの香り成分や含まれる酸と繋がり、相性の悪さを軽減することがわかっています。また、熱を入れたものの場合、生臭さの成分の香りが揮発することも関係して、生の時よりも相性が良くなります。
肉の臭みなど、赤ワインのタンニンがマスキングすることもわかっていますし、それに加えカシス風の香りを持つソースが肉にかかっていれば、自然と良いマリアージュになるわけです。
パクチーなどの香草やサラダにおすすめ
最後に、パクチーやサラダとワインの相性について考えます。近頃、パクチーなどの香草を使用した料理に注目が集まっていたり、健康志向やオシャレの観点から、さまざまなサラダが増えています。
お店で一杯目にスパークリングワインを飲まれる場合、その流れでワインと合わせることがあるでしょうが、自宅でサラダ用にワインを常備している、という方は少ないかと思われます。
サラダにおすすめのワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ソーヴィニヨン・ブランです。軽く前述で触れましたが、これらの品種のワインには、ピーマンやアスパラ系に含まれていると言われている、「2-イソブチル-3-メトキシピラジン」などの、ピラジン類由来の青臭さを感じさせるものがあります。
実は、この青っぽさを合わせるということが、サラダとのマリアージュを良くするポイントです。パクチーなどは、独特の青臭さを感じさせますが、ソーヴィニヨン・ブラン、メルローとの相性が大変良いことでも知られています。
サラダに柑橘類やフルーツ風の香りのあるフレッシュなオリーブオイル、甘みのあるドレッシングをかけるもよいでしょう。ぜひ、お試しください。
見た目から香りに
ワインと料理を合わせる時、個人的にも見た目から入ってしまうことがあります。「色を合わせる」という方法もテクニックのひとつですが「香りを合わせる」という楽しみ方を知っていると、よりワインと料理のマリアージュの楽しみを増やすことができるかもしれません。ぜひ、今後は、香りにも着目してワインに合うお料理を探してみてはいかがでしょうか。