ありのままの自然をグラスに。「ボー・ペイサージュ」のワインとバタフライ・プロジェクト

BEAU PAYSAGE(ボー・ペイサージュ)というワイナリーをご存知ですか?

フランス語で「美しい景色」という意味のボーペイサージュは、その名の通り、山梨県北杜市津金の、八ヶ岳を望む眺めの良い場所にあります。

メルローを中心にピノ・ノワールやシャルドネ等のワインを数種生産していますが、残念ながら現在市場でボーペイサージュのワインを見かけることはほとんどありません。もともと生産量が少ない上に、国内外を問わずボーペイサージュのワインに魅了される人が後を絶たないからです。

いったいボーペイサージュのワインは、どんな人が、どんな考えで、どのようにつくられているのでしょうか?

「ワインは人がつくるものではなく、畑で生まれるもの」

1999年、標高800mもある津金の地で、岡本英史さんはワインづくりをスタートしました。

「ワインは人がつくるものではなく、畑でうまれるもの」という思想のもと、岡本さんは、その年のその土地の味わいをそのまま飲み手に伝えたいと考えています。

ですから、ブドウ畑に除草剤は使わず、トラクターで耕作もしません。ブドウの収穫や除梗は全て手作業、ブドウ果汁は野生酵母の働きで自然に発酵が進みます。

そして、ボーペイサージュのワインには基本的に酸化防止剤が添加されていません。また、十分なアルコール発酵を促すための補糖も行っていません。

ワインは自然そのものでなければならないという考えのもと、何も手を加えない、という方法でワインをつくっているのです。

バタフライ・プロジェクトとは

毎日畑でブドウの世話をし、美味しいワインを追求しているうちに、岡本さんは自然環境や社会問題を意識するようになりました。ワインをつくる時の補糖に使われている砂糖が、遠い生産国の環境問題や貧困問題とつながっていることや、どんなに大事にブドウを育てていても、大気が汚染されていては健康なブドウは育たないということがわかったのです。

だから、「私達の毎日の食は世界とつながっていて、一人一人が食べ方や飲み方を少しでも意識すれば、地球をとりまく環境は変わる」ということを伝えたい、そう思って岡本さんは活動を開始しました。それがバタフライ・プロジェクトです。

具体的には、食べ物が「誰が、どういう考えで、どのようにつくられたのか」を誰でも簡単にわかるようにすることです。ワインに限らず、食品をつくる行程が複雑になるほど、私達消費者が知りたい情報はわかりづらくなります。岡本さんは、生産者が自ら消費者にとって必要な情報を公開していきましょう!と声をあげ、各地の生産者の方々と話し合いを続けています。

一方で、私達消費者もまた一人ひとり価値観が違います。だからこそ、異なる価値観を交換し、お互いに気付きを得ることで価値観と消費行動をつなげることができるのでは?と、今後は全国でワークショップを開催していく予定とのことです。

*バタフライ・プロジェクトのサポートの為に造られたコンビレーションCDブック3種。

ボーペイサージュのワインをイメージして選ばれた心地良い音楽集です。このCDブックの販売価格の7%はバタフライ・プロジェクトの活動資金として使われています。

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一期一会のワイン

先日、バタフライ・プロジェクトのためのコンビレーションCDブック(*)に楽曲を提供している、ジャズ・ハーピストの古佐小基史さんの演奏を聞きながら、ボーペイサージュのワインと食事を愉しむ会に参加しました。

その会では、岡本さんと縁のある岡山「吉田牧場」の吉田さんのチーズや、紅茶専門家の大西さんが製作したBEAU PAYSAGE Chardonnayブレンドティーもいただきました。同席された生産者の方々は、岡本さんと同じように自然に敬意をはらって食品を作っておられる方々でした。

ボーペイサージュのワインの味わいは、同じ銘柄でも年によって違った印象を受けました。けれども、共通していたのは、これまで飲んだどのワインにも似ていない、澄んだ味わいだったことです。まじりけのないブドウのエキスを鼻腔と口の中でいっぱいに感じながら、喉の奥をすうーっと流れていく、そんなワインでした。

その日、岡本さんが次のように話してくださいました。岡本さんのワインは、自然そのものを表現していると同時に、やはりワインは人によってつくられる、そう感じた印象的な言葉でした。

「ぼくが造っているような酸化防止剤を入れていないワインは、ボトルによっても、グラスに注いでからも、飲む時々によって味わいが変わります。だから一期一会なのです。そして、今日のようにワインと共に愉しむ食事も音楽も景色も、そして同じ時間を共有する人も、全てが一期一会です。だからこそ、ひとつひとつを大切にしたいと思います。」

最後に

毎年同じように季節はめぐっても、毎年同じブドウができることはありません。岡本さんにとっては、一粒一粒のブドウもまた一期一会なのでしょう。

だからこそ何も手を加えずに、その土地のその年のブドウのありのままを伝えたい。岡本さんは、ワインは美味しいかどうかということが本来の目的ではなく、自然そのものであることこそが大切だと考えているのです。

もし、どこかでボーペイサージュのワインに出会ったら是非飲んでみて下さい。飲む人の価値観をかえてしまうかもしれない、そんな力をもったワインだと私は思います。

※本コラム内の岡本さんのワイン造りの思想や、バタフライ・プロジェクトの活動については、コンビレーションCDブック内に掲載されている言葉を一部お借りしています。

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ワインコーディネーター/ワインライター。
フランス留学後、ワイン専門店勤務を経て、ワインコーディネーターに。
飲み頃や旬を大切にワインとチーズの魅力を伝えるサロン「Wine Salon d’Ourse」主宰。飲食店や食のイベントプロデュースの他、ライターとしてワインやチーズに関する情報も発信している。
J.S.A.ソムリエ / C.P.A.チーズプロフェッショナル

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