セレブの避暑地は名産地
ニューヨーク州ワイン、今回は、ロングアイランドとマンハッタンやブルックリンなど中心地のお話を...まず、マンハッタンから車で2時間。ロングアイランドから紹介しましょう。
ブティック・ワイナリーが60以上も連なるこのエリアは「アメリカのボルドー」とも言われ、ブドウ品種ではメルローに定評がありました。近年ではカベルネ・フランが注目されているほか、ソーヴィニヨン・ブランやアルバリーニョ、トレッビアーノ、さらにはスパークリング・ワインへの挑戦も盛んになっています。
ロングアイランドは富裕層の避暑地として愛されているエリア。その要因のひとつは緩やかで明るい海風と伸びやかな風景にあります。
これはセレブだけではなくワインにとっても恵まれた環境なのです。第1回で紹介したフィンガーレイクスの湖がもたらす「レイクエフェクト」なら、こちらは「ビーチエフェクト」なのか「ブリージーエフェクト」なのか...。
適度な湿気とミネラルが風に乗って海からもたらされ、過剰な熱を優しく払い、健やかなブドウが育ちます。凛としたフィンガーレイクスに対してどこか穏やかな雰囲気をまとっていて、2つのエリアを巡るとニューヨーク州ワインの幅広さが感じられます。
ロングアイランドのワイナリー
ポーマノック・ヴィンヤーズ(Paumanok Vinyards)
親子二代で「ロングアイランドらしいワイン」に挑む「ポーマノック」。二代目のカリーム氏は「この地の気候が生み出すのはバランス。健やかに育ったブドウこそ、私たちのワインにふさわしい」と語ります。
なるほど、これもロングアイランドらしいおおらかさの表現。ほっこりとしたピュアさ。毒気も野心もワインからは感じられません。素直な伸びやかさはこの地のワインメイカーならではでしょうか。一方で、遅摘みソーヴィニヨン・ブラン、リースリングのスイートワインなど幅広いラインアップにも挑戦。安住せずに革新を続けていく姿勢もある意味ではニューヨークらしさですね。
ウォルファー・エステート・ヴィンヤード(Wolffer Estate Vinyard)
セレブ層も頻繁に訪れるというウォルファーのキーワードは「エレガント」。ロングアイランドの中でも、特に富裕層が集まる「憧れの避暑地」ハンプトンが本拠地ということもあり、ワイナリーそのものに気品が感じられます。
スパークリングをはじめとするワインのすべてが、明るく朗らかでエレガント。「ここでワインを造るならそういうワインを造らなければ意味がない」と、ポーマノック同様に、ロングアイランドらしさを強調します。
ワインの世界でよく言われる「テロワール」。土壌だけがテロワールではなく、光、風、そして空気感という、数字で実証のできない要素までをも含むんでいそう...ロングアイランドの光、風の中、ここに関わるニューヨーカーたちと話していると、そんな気持ちになってきます。
余談ですが、ワイナリー一族の娘さんは、ハンプトンのファッションリーダーとしても有名です。
ブルックリンのワイナリー
ブルックリン・ワイナリー(Brooklyn Winery)
モダンなワイン造りの考え方と、クリエイティブな発想を持って、NY州のテロワールを生かした、ワインメイカーが続々と生まれ、NYの街とライフスタイルに新しい刺激を与えています。その中でもユニークなのが「ブルックリン ワイナリー」です。
「都市型ワイナリー」、「地産地消ワイン」のアイコン的存在で、ブドウ栽培は行わず主にフィンガーレイクスから彼らの感性でブドウをセレクトし、ブルックリンのお洒落エリアで醸造を行っています。
ワインはそのまま併設のダイニングで楽しめますが、このダイニングもクリエイターなど感性豊かな層が集まり、ブルックリンの新名所になりつつあります。日本でも同じように、東京や大阪で都市型ワイナリーの動きが出てきましたが、その先鞭をつけたという意味でも注目のワイナリーです。
まとめ
さて、日本ではまだ知名度が高くないニューヨーク州ワイン。地元ではどのような動きになっているのでしょうか。 NY州の農産物、プロダクトを積極的に取り入れようという、いわば、NY版地産地消の考え方が浸透してきたこともあり、最新アドレスのレストランやバーのメニュー、品ぞろえにこだわるワインブティックには多数リストアップされています。
ユニオンスクエアの野外マーケットなど、食やライフスタイルに敏感な方が集まる場所でも多彩な地産ワインが並びます。商業ベースに乗った、という意味では歴史が浅いニューヨーク州ワインですが、世界中のワインを知るニューヨーカーたちが、世界のワインと比較した上で大いに楽しんでいます。
それは、「高品質」や「クールであること」ということに加えて、彼らのライフスタイルにちょうど良いワインを発見した...そんな喜びもあるのでしょう。