【連載】初めてのデートはシャンパーニュ

オトナワイン - お家ワインを目指すための特訓講座第 【 登場人物 】

葉山さん:ワインの世界を新しい切り口で教えてくれる、人気ワインライター

 

マナブ:社会人3年目、ワイン初心者で彼女募集中のイマドキ風な若者

 

金曜日の午後9時。西麻布のワイン・バーで、スーツ姿の青年がちょっと真剣な表情で、オジサンと話しをしている。

 

「先週、合コンに行ったんすよ。そしたら、イイなぁって思う女の子がいて、さり気なさを装って隣に座って仲良くなって、来週、ディナーを一緒に食べることになりました。で、どうしたら、ディナーがうまく行くか、いろいろ教えてほしいんすよ」

「そりゃよかった。前回の分を取り返さなきゃな。まずは、バッター・ボックスへ入ったって感じだね。しっかりヒットを打たなきゃ。で、お店は決めたの?」

「僕のサラリーじゃ星付きの高級フレンチやイタリアンへ行けないし、行ったこともないし、でも、焼き肉食べ放題じゃスタイリッシュじゃないしね……」(750cc分の溜息をつく)

「そうだね、焼肉屋のカップルって、『二人で泥沼の同棲を半年やってます』ってオーラがジャバジャバ出てるもん。初デートは、ビストロみたいな気軽なフレンチがいいね。オシャレだし、二人でワインも入れて1万5千円ぐらいかな?」

「何なんですか、それ。1万5千円もするんすかぁ……」(少し焦っている)

「初デートがうまく決まって、お付き合いが順調に行けば、夢の『お家ワイン』に持ち込める。家で、ゆったりまったり楽しく二人きりでワインを飲んで、いちゃいちゃできるっていう『楽園』が待っているぞ。まずは、『お家ワイン』を目指すための『初期投資』をしなきゃだね。星付きのレストランじゃ、その4、5倍かかるよ」

「分かりました。じゃあ昼飯代をケチって、ビストロを予約します。で、『お家ワイン』に持ち込めるワインの基本を教えてほしいんす」

「ワインをダシに、女性と仲良くなるのは、物凄く正統的なワインの使い方だよ。古代ギリシャやエジプトの大昔から、ワインで陥落した美女は星の数より多いからね」(物知り顔になっている)

「じゃあ、どんなワインを飲めば、彼女とうまく行きます?合コン用にワインの知識は仕入れてますけど、自分のデートで使うとなると、意外に大変なんすよね……」

「まずは、お店のウェブページにアクセスして、ワイン・リストをゲットするといいよ。ついでに、メニューもね。どんな食事があって、どのワインと合わせるかを予行演習できるよ。金額も分かるし。ヨット・レースと一緒で、号砲がなる前から試合は始まっているんだぞ」

「お店に入る前から、食事とワインのマリアージュを決めておくんすね」

「そうだよ。で、問題は、例えば、彼女が魚料理で、君が肉をオーダーした時、どんなワインを選ぶかだな。『お家ワイン』の時も、そんなシチュエーションは多いと思うね」

「それって、『魚に白、肉に赤』すよね。食べ物の色と、ワインの色を合わせるのが基本でしょ?」

「おぉ、よく勉強してるね。でも、その通りにすると、赤白2本オーダーすることになるぞ」

「そっかぁ。2本だと1,500mmじゃないっすか。僕と彼女で、そんなにたくさんは飲めませんよ。酔っぱらっちゃ、『その後のお楽しみ』がなくなって、『二日酔いの苦しみ』がテンコ盛りっすよね」

「そうなんだよ。『お家ワイン』なら、コルクを打ち直して次の日に飲めばいいけどね。ビストロじゃそうは行かない。初デートなら、彼女がどれくらい飲めるかも分からないんで、ハーフ・ボトルで赤白を飲むのも大変かもね。そんな時の味方が、グラス・ワインなんだ」

「はぁ、グラス・ワインですかぁ。このお店にも、最初のページに2、3種類載ってますよね」

「グラス・ワインは、お店の看板なんで、ソムリエも全力でキチンとしたものを選ぶし、1杯800円ぐらいだからおススメだよ。でもね、グラス・ワインは誰でも思いつくし、『僕はワインに少し詳しいんだよ』ってオーラが少ないんだよね」

「じゃあ、グラス・ワインの薀蓄を語って、イイ格好しようかなぁ。でも、迫力ないっすよね」

「グラス・ワインの薀蓄じゃあ、お相手は騙されてくれないだろうね。お家デートじゃあ、自分でワインの銘柄を決めなきゃならないんだよ。『下心の成就はワインにあり』って言葉があって、初デートでは、自分でワインを選ぶと、必ずうまく行くぞ。ワインは、ビールや酎ハイより圧倒的にスタイリッシュで、そのワインを自由自在に選べるってカッコいいだろ?」

「グラス・ワイン以外に、ワイン・リストの中から、食事に合うワインを自分で選べるようになりたいな~。『魚に白、肉に赤』の他に鉄則ってあるんですか?」

「魚と肉の両方に合って、普通のワインよりずっとオシャレで、価格も安いと三拍子揃っているのがシャンパーニュなんだ。オードリー・ヘプバーンは、『昼下がりの情事』の中で、『魚に白、肉に赤、恋にはシャンパーニュ』って言ってるぐらいだからね。この映画はね、『麗しのサブリナ』の次にヘプバーンが主演した作品で、お相手がゲーリー・クーパーで……」

「確か、シャンパーニュってシャンパンのことですよね。使い分けてるんすか? プロも両方使っている感じっすね」

「使い分けてはいないね。英語読みの『シャンペイン』からきたのがシャンパンで、フランス語ではシャンパーニュだ。お店では、『シャンパーニュをお願いします』と言うとカッコイイね。絶対にダメなのが『シャンペン』だ。場末のフィリピン・パブで、デブのオヤジが、『ねえちゃん、そしたら、シャンペンもってきてんか』って感じでカッコ悪いだろ?」

「そうっすね。これから、ヘプバーンとシャンパーニュでいきます。フィリピン・パブでシャンペンじゃなくて」

「ビールが好きな人ってね……」

と言いながらグラスのワインを飲み、絶好調の葉山さん...次回へ続く

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シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など

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